放課後デスゲーム
ある秋の日、放課後の演劇部部室内。時刻は一五時三0分を少しまわ
ったところ。
そこに全部員が集合して、ミーティングが開かれていた。
「えー、文化祭で演じる、演目を考えたいんですが」と部長。
「ここで、一発派手な舞台で演劇部をアピールするって手もありますけど」と部員の誰か。
「派手な舞台ねえ……」と別の誰か。
「ライオンキングとか?」
「都市伝説の『演劇部がロミオとジュリエット』なんて、やってみる?」
「ウエスト・サイド・ストーリーを宝塚風にはどう?」
「体育館の講堂ステージに大階段作れないから」
「って、現実的に考えて、大道具、小道具の手間を考えると学園モノがいいと思うんですけど……」
「まあそうだね。机いす、衣装、には困らないからね」
「制服アイドルっぽい衣装にしてもいいんじゃない?」
「却下。衣装の手間かかるじゃん」と奔放だったアイデアが収束していく。
○同、一五時四0分。
「文化祭だから、一般客層向けのストーリーがいいよね」と部員の誰か。
「じゃあ、芸術よりエンタメ路線がいいね」
「黒いのがいいよ闇が深いやつ」
「まあ、恋愛とか泣けるとか、道徳の時間みたいなのはダルいよね」
「人狼ゲームとか、ミステリーは?」
「あんまり頭が痒くなるのもねえ、ついてこれなかった客からアクビ出そう」
「でも人狼なんかの、デスゲーム系ってのは、いいアイデアじゃないかな」
「それならいっそ舞台も『クローズドサークル』モノにしようよ、閉ざされた空間。セット転換なしでいけるじゃん」
「なら、セットや衣装に楽する分、脚本はオリジナルにしない?」
「いいねえ」
「うんうん」
「じゃ、それ系で、みんなで脚本のスジを考えてみるか」と部長。
○同、一五時四五分。
「まず、どうやって、世界から孤立するか? 後々のことも考えると、SF的なものか、超常現象的なものかな?」と部員の誰か。
「細かい設定はスジがまとまってからにしないとアイデアが縛られるし、保留にしとかない?」
「じゃあとりあえず、突然の黒雲。学校に落雷して、全員気絶くらいで始めようか」と部長。
「クラスのみんなが目を覚ましたら、教室から出られなくなっていた」
「『と、扉があかない』『窓もだ。どうなってるんだ?』」
「そこで放送が入る。『皆さんは時間のハザマを漂流中です。教室からの物理的な脱出は不可能です』と」
*
「で『一体何が起きたんだ』とクラス中で騒ぎが起こる」
「日常の崩壊ね」と部員の誰か。
「最初のうちに、ルールの視覚化とドラマへの興味導入で、何人か殺したいね」
「ちょっと待って、うちの部員数のことも考えないと」
「それに、目的も決めとかないと、一人が生き残るまでやるのか、何かの犯人を探すのか」と部長。
「なんかのマンガでオナラするヤツあったよね」と部員の誰か。
「授業中にスカしっぺした犯人を見つけるために殺し合いすんの?」
「それ、ちょっと支離滅裂すぎない?」と否定的意見。
「まあ、元の世界に戻る方法を考える。ってことでいいんじゃない?」
「じゃあ、死んでゆく、もしくは殺される正当っぽい理由がいるね」
「『11人いる』って話みたいにさあ、誰だかは判別できないけど、本来いるはずのない人が一人、人数から増えてるってのは?」
「そいつ自殺した子の幽霊にしようよ。なんかの小説にあったような……」
「『冷たい校舎の時は止まる』かな? あれはもっと複雑だったね」とスマホを操作して答える素早居検索くん。
「でも、登場人物殺したほうが派手だけどね。舞台が地味というか、生徒にとってはいつもの風景なだけに」
「いじめを苦に自殺した子が、クラスの仲間に謝罪させることを目的に、反省がない生徒を殺していくってのは?」
「結局それか」
「まあ、いいんじゃない」
と、納得する面々。
○同、一五時五五分。
「死ぬのはバトロワみたいに自動で首がしまる首輪をつけさせられているのがいいと思う」
「それ、絵的にも映えるよね」
「そうね、平常時は青いランプ、首が絞まると赤ランプの点滅、心臓が止まるとランプが消えるってのでどうかしら?」
「ウルトラマン方式ね」
「賛成」
「異議なし」
「でも、だれが点滅させるの? 裏方の人手は?」
「手動でもいいし、スタッフはOBや友達にもヘルプ頼もうよ」
「手動スイッチングだと大鏡が欲しいかな? 間違えてても首輪だと自分じゃ確認できないから」
「うーん。シルバーの指輪ハメとけば反射光くらいは見えるんじゃないか?」
「それでいこう」
○同、一六時00分。
「マスコット的なゆるキャラ用意する?」
「デスゲームの案内役的な?」
「自殺した子の幽霊が根源だと、こっそり紛れ込んでおいたほうが怖くない?」
「『RDGの和宮』的なヤツね」
「そう、自殺した時、魂がその土地の心霊に結びついて巨大な力を得たの」
「じゃあ、なんかその心霊と結びつくような善行しといたほうがいいね」
「花の水やり当番的なの?」
「ゴミ拾いが神のご加護を得そう。千と千尋のオクサレ様なんかそうじゃない。でも川より山の神がいいと思うけど」
「川原だと、そこでいじめにあっているイメージあるもんね」
「自殺の子は、山の穴場的展望スポットで街を眺めて癒やされる趣味があった。で、そこへの道すがらゴミ拾いもしてる。その途中に山の神が祀られている祠があるって感じはどう?」
「その設定でいこうか。作中に出すかどうかはともかく」
○同、一六時一0分。
「デスゲームの案内は放送が入るってことで」
「じゃあ、内心のモノローグにもきっと必要だから、それは別のスピーカー使って音声だそう」
「案内放送は舞台に取り付けた学校スピーカーから流すことにしよう。それらしいエフェクトかけて」
*
「話の背景をまとめると」と部長。
・幽霊はいじめを苦に自殺してる
・クラスメートたちは事件を風化させ忘れている
・クラスメートたちは、その中に溶け込んでいる幽霊を見抜けない
・自分と事件を思い出させて、謝罪させることが幽霊の目的
・教室を異世界に移動し、裁判のような学級会を開く
・一人ずつ首輪を使って絞め殺してゆく
「こんな感じかな?」
「人狼っぽさも出てきたね」
「異論がないなら会議を進めよう」と部長。
○同、一六時二0分。
「みんなが目覚めてまず、放送でデスゲームのスタートコールだね」
「ルール説明的なやつもな。内容はもうちょっとスジを詰めたあとにしよう」と部長。
「主人公は良くも悪くも平凡な子がいいね」
「女の子がいいんじゃない?。うちらの部、女多いし、デスゲームは男主人公多いからな」
「まあ、主人公は平凡で観客の分身になれるタイプがいいからな」
「それだと女主人公は、男はもちろん女の中にも苦手なやついるからなあ」
「やっぱ宝塚みたいに男役を女が演じるのが無難じゃ……」
「それな! 逆に考えよう。女役を男に演じさせれば、女にも男にも受けんじゃね?」
「そういや、うちにはうってつけの男の娘属性の奴がいるな」
「ま、まじっすかオレいやっすよ」とカワイイ系男子部員
「ダーメ。部長命令」と部長。
「ていうか部長も男だから、部長が主役やればいいじゃないですか?」
「俺は、アバズレ女役をやる。この手のドラマには重要な役だ」と部長。
「さすが部長、潔い。だから男の娘も決定よ」
「ちえっ、わかりましたよ~」とカワイイ系男子部員。
*
「というわけで、メインとアバズレ枠がきまったとこで、次の展開に進めよう」と部長。
「その前にオチを決めませんか?」と部員の誰か。
「えー、帰納法やだー、ストーリーが縛られる。やっぱキャラの赴くままに演繹させようよ」
「そんなの只の行き当たりばったりを、都合よく言い訳してるだけじゃん。プロみたいに引き出しが一杯あるならそれでもいいけど」
「コホン、オチはもうきまってる。夢オチだ」と部長。
「まじっすか」
「夢オチといってもあれだぞ、どっかのへんな夢日記とはわけが違うぞ、気がつくといつもの教室、いつもの授業、殺された人間も主人公も同じ夢から覚めて、自殺したこのことを改めて考え直す。という物語的成長を見せる夢オチだぞ」
*
「じゃあ、その子、自殺より事故のほうが良くないですか? 自殺が風化するってのも現実的じゃないですし、事故死した目立たないクラスメートの存在が風化するほうが自然かも」
「それで忘れられて淋しい心霊が、承認欲求を発動してクラスメートにイタズラするみたいな?」
「それでいこう。なんか深みが出てきたな」
○同、一六時四0分。
「じゃあ、オチも決まったし、内容を決めていこうか?」と部長。
「あるあるエピソード並べていけば、スジが見えてくるんじゃないですか?」
「では、みんなでデスゲームあるあるしてこうか」と部長。
「大体、最初に頼りないキャラが主人公格についていたりします」と提案する部員の誰か。
「頼りない幼馴染キャラね」と賛同しながら補足する誰か。
「『僕には無理だよ、犯人指名なんて出来ない…』とか言いながら、主人公を守る為に身を挺して頑張っちゃうのよ」
「でも、心が弱いからどこかで裏切って敵側についちゃったりもして」
「泣き展開で必須要素の、残酷な世界で健気に生きる人な」
「こいつだよ。もうこいつが心霊じゃん。和宮パターンだよ」
「でも、幼馴染忘れてる主人公って設定、破綻してない?」
「じゃあこいうのは? 幼馴染は主人公の身代わりに事故にあって死んじゃう。主人公は、その事故で頭をうって記憶の混乱が、みたいな」
「なんか韓流ドラマっぽくない、ご都合主義的な」
「もっと補足してみるよ。主人公は記憶の混乱があっ