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第49回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動7周年記念〉
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殺人ノート
 投稿時刻 : 2019.02.16 23:42
 字数 : 1861
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殺人ノート
ふわ ゆー


真夏の午後の昼下がり。うだるような暑さの中。ワイシツを汗で濡らしながら私は湯気上がるようなアスフルトの歩道を歩いている。

最近我が社の業績は悪化する一方で、ワラにもすがる思いで、商店街で朝から飛び込み営業をかけまくた。でもうまくいかなかた。

思えば冴えない人生だた。私はなぜか一族の中で群を抜いて能力が低く、優秀な二人の兄には見下され、両親や親族からも煙たがられた。学業も振るわず、3流の高校を出、4流の大学になんとか受かて通わせてもらい、勤めている者の家族すら名前を知らないような会社の営業部で働き始めた。

もちろん社会に出てもうまくいかない。不器用で、努力が苦手で、人の気持ちがわからないのだと思う。よく周囲から空気が読めないと叱られたものだ。

そんなことを思い浮かべながら、疲労と暑さでぼんやり街中を歩いていると、宙から目の前に何かが落ちてくる。

頭上を見上げる。どうやらマンシンのベランダから何かが落とされたらしい。しかし誰の人影も見えない。

「危ないな」とため息をつく。

拾い上げてみるとどうやらA4ノートらしい。表紙に殺人ノートと手書きで書いてある。伝説のデスノー○だたりしてと半分冗談。半分本能が求めるままパラパラとめくて見る。
人の名前がズラリと書き込んである。


その文字列に薄ら寒いものを感じ、顔を上げ辺りを見回してみる。誰も私に注意を払てなどいない。とそこへ社用のスマホに電話がかかる。

上司からの連絡だた。

「どこで油売ているんだ」と怒鳴り声。

取引先から伝票の数値間違いで苦情の電話があたらしい。

「使えないヤツだな。この給料泥棒」と一方的に怒鳴られた。

さすがに腹が立たが、上司いわく急いで社に戻り対応しろとのこと。私は頭を下げつつ電話を切た。

ふと思いつき半分。冗談半分でノートに上司の名前を書いた。


    *


社に戻ると上司は救急車で病院に運ばれていた。女子社員に聞くと急性の心臓疾患でさき倒れたらしい。このノートは本物だたんだ。私は恐ろしくなた。

しかし慣れとは恐ろしいもので、しばらくすると私は人を殺すことにためらいの感情を持たなくなた。むしろ今までの人生を帰るターニングポイントだと考えた。

私は復讐の鬼となり一族を皆殺しにした。もちろん指一本触れてない。ノートに名前を書いただけだ。

ノートは名前を知らなくても私が念じた人間の容貌を簡単に書くだけで、対象者を殺してくれた。しかし時間指定はできない。書いたら数分後には死んでしまう。急性の病死や不慮の事故死だたが、私が疑われて事情を聴かれることはあても、逮捕されることはなかた。

実際、この国の法律で裁かれるようなことはしていない。そう言た意味では私は無実だた。

わたしは意中の女性と付き合う男性をつぎつぎ殺してゆき。そのたびに親身になて慰め、ついに彼女と結婚し幸せな家庭を築いた。それがここ1年の出来事。

しかし――


    *


女子高生が現れたのはノートを拾てからちうど一年後のことだた。

「そのノート私のだから返して」

私は突然の女子高生のセリフに戸惑いを隠せない。
彼女いわく、去年の夏にマンシンからノートを放て以来、私を監視していたらしい。

「人を殺すのにも飽き飽きしたし、世の中のために使おうにもノートをどう扱ていいのかわからないじん」

それで大人に渡して様子を見ることにしたらしい。

――でも、

「あんたも世の中のため、上手にそのノート使いこなせてないよね。悪いけど返してよ。生殺与奪権泥棒さん」

しかし私ももうそのノートなしでは生きていけない。返すわけにはいかない。そうだ! 殺してしまえばいい。そうすれば誰も私を咎めるものはいなくなる。私は急いでノートに目の前の女子高生と書こうとした。

しかしそれを見ても目の前の女子校生は慌てることなく私の仕草を見て笑ている。なんだ? ただのキチガイだたか?

ところが私は急に視界がぼやけはじめ、景色がクラクラ回り、ついに身体が地面に倒れ伏してしまう。ドサリという音と衝撃を感じた。

どういうことだ? 私が訳が分からないまま動けずにいると、女子高生が見下ろして言た。

「もう先にそのノートに書いておいたのよね」

 だが彼女がノートを所持していたのは一年も昔のことだ。私のことを書く暇など…… と息が苦しくなり、鼓動が荒げ、そして意識が遠くなる。死の闇が訪れようとしたその瞬間パラパラと風でめくれたノートの文字が目に映る。

そこには女子高生特有の丸くかわいらしい文字で、


『私に殺意を抱いた全ての人』と書いてあた。
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