更新履歴
- 2019/03/17 10:57:59
- 2019/03/17 10:57:36
- 2019/03/17 03:10:54

「お嬢ちゃま。一大事でございます」

メイドの冥子さんが、クールな無表情で慌てふためいている。大富豪のお嬢ちゃまの元に、気になるイケメンの池斗くんからデートのお誘いが届いたのだ。


そして、うららかな春の日の初デート。

「池斗くんはいわゆる庶民でございますので、カジュアルなファッションがよろしいのでは」

と冥子さんのコーディネイトで、ブラウンのバルーンスカートに紺白横縞のハイソックスとボーダーシャツをインナーにアイボリーのノーカラージャケットにクロエ『リリー』のピンクのポシェット。髪はラフなお団子に、明るいグレーのベレー帽をあわせている。

お嬢ちゃまは久々のカジュアルファッションで、スキップしたくなる気分を諌めながら待ち合わせ場所の駅前の噴水へ。


池斗くんは、韓流男子さながらのスタイルで噴水の前に颯爽と立っていた。本人は王子様気分なのだろうが、お嬢ちゃまは欧州、アラブ、皇族と本当の王子様を見慣れているので（これが、庶民という人の精一杯かあ）と感慨深かった。

二人はさっそくお嬢ちゃまのリクエストで駅前の映画館で大長編ドラえもんの最新作を観て大興奮。
そのあとは池斗くんのお誘いで、おしゃれな有名ケーキ屋さんでイートインすることに。


「このお店の一番人気は『ふわとろ大きめシュークリーム』なんだよ」と池斗くん。

（知ってるわ、だって私の大好物で、メイドの冥子さんがご褒美にいつも買ってきてくれるんだもん）。
そう心の中で思いながらも、顔に出さず。

「わあ、池斗くんって物知りなんだね」とお嬢ちゃま。

「シュークリームのシューって、フランス語でキャベツのことなんだよ。キャベツに似てるからだって。おかしいよねハハハ」

「わあ、本当に池斗くんって何でも知ってるのね。まるでウィキペディアね。これからイケペディアくんって呼んじゃおうかしら？ふふふ」

「よしてくれよ」と満更でもない池斗くん。

そして運ばれてきた2つの大きなシュークリームとコーヒーとハーブティー。

（まあ、今日はまた一段と増しておいしそうなふわとろシュークリーム。シュー生地はしっとりしてもちもちの柔らかさなのに、生地の上側はバーナーで炙ってカリカリに仕上げられシュガーパウダーで飾り付けされている。そして中身のカスタードはもちろん純度の高いバニラビーンズがところどころに浮かんでいる。そこに最高の比率で大山乳業の生クリームが混ぜられ、秘密のレシピでナイフを入れると切れ目から液体のようにとろけ出してくる。味は絶妙の自然な甘さ。マジおいしそうですわ）

でも、いつもお屋敷でやってるように、手づかみで中身をチューチュー吸うのは淑女としてははしたない。でも、ナイフとフォークを使っても、この店特有のクリームでは中身がとろりとこぼれでるのももったいなくて嫌。

困ったお嬢様。
そんなとき。

「デートは乙女の勝負の場でございます。ご武運を」という、お屋敷から出かけるときに告げられた、メイドの冥子さんの言葉を思い出す。

そして、お嬢ちゃま、は一大決心をして目をつぶり、シュークリームにフォークを突き刺すと大口を開けて一口でぱくり。

甘～い黄金のビロードの洪水のような贅沢クリームをのどごしに味わい、香ばしいサクふわなシュー生地をごくんと飲み込んで目を開けたとき、眼前には驚き目を見開いている池斗くんの表情があった。

それを見たとき、内心で。
（勝った。初デートで初勝利！）
そうほくそ笑むお嬢ちゃまだった。

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