第7回 文藝マガジン文戯杯「COLORS」
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灰赤の花筏
あち
投稿時刻 : 2019.05.07 02:23 最終更新 : 2019.05.07 09:43
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更新履歴
- 2019/05/07 09:43:45
- 2019/05/07 02:23:52
灰赤の花筏
あち


 ボクは気づいてしまた。
 フワリとした日差しの中、マグノリアの甘い香りがボクを包んだ。
 意味もなくフワフワと浮き立つようで、突然シンシンと寂しくなて、不意にチクリと痛む、この気持ち。きと、あの人を初めて見た時に生まれた。気づかないふりして、知らん顔してずと過ごしてきたのに、こんなに大きく育ていた。
 ボクよりも時を刻んだ小さな手。ボクの知らない何かを背負う細い肩。はにかみながら控え目に緩む柔い頬。一見すると頼りなく弱々しいのに、あの人の腕は力強く、誰も気づかない、どん底にいたボクをここまで引き上げてくれた。あの強さはどこから来るんだ?あの頬はどれだけ柔らかいんだ?あの手は何を包むんだ?あの肩は何を背負ているんだ?年齢もモラルも、面倒くさいもの全て飛び越えて、あの人の隣に立てみたい。あの人の世界を感じてみたい。あの人の全てに触れてみたい。ずとずと触れていたい。そしてボクを見て欲しい。
 ムクムクと膨れ上がる、得体の知れないこの気持ちは、ボクの全てを飲み込んでドンドン大きくなていく。そして、誰も知らないボクになていく。誰にも知られたくないボクになていく。心のどこかで『イヤだ!』と叫ぶと、違うどこかで『イイじないか?』と誰かが笑う。
 キリとした風が通り抜け、ボクの頭上からヒマワリが睨んでくる。季節が変わても、ボクは『イヤだ』と『イイじないか』の間を行たり来たりの毎日を過ごしていた。同じ時間、同じ場所で生きていても、見ている未来は同じじない。決して一緒に見られない。そんな事、わかている。たぶん、ずと前からわかていた。わかていたけど、どうにもならない事がこの世の中にはあるんだよ。ボクが縋るように顔を上げても、ヒマワリは変わらずジと睨んでいる。
  時が流れ、季節は変わる。薄紅色は熱を帯びて、紅く、朱くなていく。気づけばボクは緋になていた。さらに深緋へ染またボクは、一番深い奥の方から種火を抱くようにチリチリと燃え出した。全てを焼き尽くせ、ボクの深緋色。イヤなボクもあの人も、全てを燃やして燃え落ちろ。晩夏の夜の花火のように、ドーンと弾けて消えてしまえ!
 残暑を忘れた真夜中、ボクはパソコンを立ち上げて、パチリパチリをキーボードを打ち始めた。
 『ボクは気づいてしまた。・・・』
 サクリと胸を切り裂いて、一つ、また一つと言葉を紡ぎ出す。するとパソコンの白い画面上にハラリ、ハラリと何かが落ちていた。それは液晶の上をユラユラと、まるで花びらのようにうごめき出す。散ては集まり、集まては散て・・・
   彷徨いながら流れていく灰赤色の花筏。季節外れの花筏。どうにもならないボクの思いを、どうか、どうか静かに、葬てくれ。
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