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弔辞 (地の文のみ小説)
投稿時刻 : 2019.05.17 22:17
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弔辞 (地の文のみ小説)
ゆきな|根木珠


平成三十一年二月某日

 ええ、柴田雄一でございます。正志郎くんの友人といたしまして、謹んで告別の言葉を申し上げたいと思います。ゲフン。

 正志郎くん。君とは小学校時代からの腐れ縁で、同じクラスにになたのをきかけに付き合いが長く続きましたね。小学校三年生のころでしたか、学校へ来なくなたおれを無理やり引きずり出して、学校に行かせようとしたな。おれはうんざりしていた、おまえはデリカシーのないやつだたからな。だけど中学校にあがり、いじめられていたおれを、おまえが助けてくれたこと。あれは嬉しかた。ありがとうな。
 高校生になると、急におまえは色気づきだして、またく似合ていないサングラスをかけていたな。おかしかたぞ。まるで湯あたりしたトンボみたいだた。あのサングラスはよせ。まあ、もう死んじまたから、かけることもないだろうが。
 またく不思議な腐れ縁で、大人になて別々の道を歩んでいたおれとおまえが、精神科のデイナイトケアで久しぶりに会うことになろうとは、誰も想像できなかたろう。
 なあ正志郎。おれはおまえを、羨んでいたんだ。
 デイナイトケアで知り合た女性がいたろ。彼女、おまえのことちといいな、なんて言たものだからおれは嫉妬して、あんなやつはよせ、あいつは女癖がわるいんだなんて言ちまて。本当のこととはいえ、悪かたと思ている。だけどそのあと、結局おまえは彼女と付き合うようになたな。彼女、過食嘔吐をするんでおまえはそれで悩んでいたけ。おまえも恋愛依存症の治療をがんばているところだた。問題を抱えている二人だが、互いが互いの支えになていたのは外から見てもよくわかた。あの女たらしの正志郎が、たた一人を大事にできたのは、奇跡のようにおれには思えたよ。このふたりはずと幸せに暮らすんだろうて、おれはそう思ていた。
 だから二人のあいだに子供ができたて聞いたときは、おれは本当に嬉しかた。自分のことのように喜んだよ。だておまえたち悩んでいたものな。こんな二人で子供を生み育てられるんだろうかて。それがどうだ、おまえたちの恭子ちん、明るく元気で暮らしているぜ。小学校でも人気者だ。おまえ、よくがんばたな。ちんとやれたじねえか、子育て。
 恭子ちんは父親を亡くしても気丈に振る舞ているぞ。本当にいい子だ。この子がまだ幼稚園くらいのころは大変だたそうだな。恭子ちんがまだ幼いときに、この子の母親は、うつぽくなちまて。それでおまえも恭子ちんの世話をしていたね。それから仕事も休みがちになて。おまえの後輩がいつも心配していたな。こんなに休んでいたら、いつか会社がおまえをクビにするかもしれんと。そして実際、おまえはクビになた。自己都合で退社したことにさせられたが、実質クビだた。それでもおまえは家族を支えようと、なんとか次の仕事を見つけてがんばていたな。恭子ちんもきと、父親の気持ちをよく理解してくれているぞ。
 だからだろうな、恭子ちんが母親に対して、徐々に苛立ちを見せ始めたのは。おれは恭子ちんにとて、ただの知り合いのおじさんでしかなかたが、あの子はときどき母親のことをおれに話した。過食嘔吐、やめられなかたんだな。隠していたみたいだが、恭子ちんは気がついていたんだ。母親のせいだ、そのせいで父親はこんなにも苦労をしているんだと恭子ちんは思た。それで恭子ちんは、小学六年生というまだ若い歳ながら、自分の母親を殺そうと決意したんだな。

 おまえが仕事を探しにハローワークに行ているあの日、恭子ちんはおれに相談したよ。母親を殺すにはどうしたらいいかなて。そうだな、とおれは答えた。恭子ちんは力が弱いけど、おれなら体力もあるからたいがいやれるだろう。だからおれが手をかそうかて。でも恭子ちんは、ううん、自分でやるて、そう言たんだ。どうだこの責任感。立派だと思わないか?
 恭子ちんが母親を殺せるようおれは、あの子の後頭部を強打することにしたんだ。うちにあるゴルフクラブでな。おまえのいない時間帯は知ていたから、いつものように知り合いのおじさんとして家に入れてもらた。そして過食をしたあと嘔吐をするタイミングで、あの子の背後から、ゴルフクラブを打ち下ろした。恭子ちんには、気を失たあの子を包丁で刺すという役割を与えた。恭子ちんは完遂した。死体はおれが隠した……
 正志郎。
 おれはおまえを、羨んでいたんだ。
 おれはずと独身で、好きな子もおまえにとられて、おまえは幸せな家庭を築いていた。それをおれは、ぶ壊したかたんだ。アル中の治療で失敗を繰り返していたおれには、明るい未来なんて想像できなか……だからおまえを……
 ごめん……

      ◇   ◇   ◇
 
 平成三十一年二月九日、午後四時頃、東京都世田谷区✕✕の住宅にて、二名の遺体が発見された。遺体は田丸正志郎さん(四三)とその妻、田丸美子(四〇)と見られる。
 世田谷区警察は事件と事故の両面から捜査を始めているという。
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