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尋問 (会話のみ小説)
投稿時刻 : 2019.05.17 22:19
字数 : 1997
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尋問 (会話のみ小説)
ゆきな|根木珠


「聞かれたことにだけ答えてください」
「はい」
「あなたのお名前は?」
「田中太郎です」
「田中さん。歳はおいくつですか?」
「ええと、今年で三十になりました……あれ、なんで今、笑たんです? 僕の頭が薄いから? そうでしう。このハゲまだ三十だたんだ見えねえて思たでしう、あなた」
「いえ笑ていませんよ。お気になさらず。それでお住まいは?」
……足立区千住旭町、○丁目○番地○」
「わかりました。それで今日は、なんでこんな埼玉くんだりまで来たんです? わざわざバンで」
「僕、埼玉好きだから……いいじないですか、僕がバンでどこ行て」
「昨日、福祉会館の駐車場にあなたのバンがずと駐車されているのを目撃されていますね。出雲伊波比(いわい)神社に何か用があたんですか?」
「あそこでちうど流鏑馬(やぶさめ)がやていたから。馬が見たかたんだ」
「流鏑馬が終わても、まだバンは駐車してありましたね。それはなぜですか?」
「しばらく停めていただけだ」
「質問を変えましう。あの神社の付近に、図書館があるのをご存じですね?」
「ええ、まあ」
「その図書館であなたはあの日、閉館時刻までいましたね。なぜです?」
「いろいろ、調べたいことがあたんだ」
「図書館ならほかにいくらでもあるでしう。こんな辺鄙など田舎までこなくたて」
「流鏑馬を見ていたら急に調べたくなたんだ」
「そこからしばらく歩くと、埼玉医科大学がありますね?」
「関係ない」
「なぜ何度も訪れてるんでしうね」
「それは」
「いいですか、私はあなたのことを、あなた以上に知ているんです。下手にごまかさないほうがいですよ」
「だからそれは……あの病院には僕の祖母が入院してたんだ」
「それでお見舞いに行ていた?」
「そうだ」
「何度もお見舞いに行たけれど、その都度、邪険にされた」
「そんなことはない」
「大好きなおばあちん、僕はおばあちんのことが好きなのに、どうしておばあちんは僕を愛してくれないの。そう思た。違いますか?」
「うるさい」
「ああ、僕は腹が立たぞ。今に見てろ。そう思たあなたは、人工呼吸器を外した」
「黙れ」
「ふとわれに返り、自分のやたことの重大さに押しつぶされそうになた」
「違う、そんなんじ……
「ところで田中太郎さん、ご両親はご健在ですか?」
「さあ。あのひとたちとは、とくに縁を切たから」
「ああ、そうですよね。ご両親とはうまくいかず、ずとおばあち子だたんですもんね」
「ずと昔の話だ」
「あなたのお祖母様、どちらのお母様でしたか」
「さあ」
「母方のお母様でした。そうですね?」
……
「あなたのお母様もお父様もどちらも、お見舞いをされていなかた」
……あいつらは恩知らずで……親不孝もんだたんだ……
「だから?」
「だから僕は」
「ご両親も居場所を突き止め殺害した。そうですね?」
……死んで当然のやつらだたんだ」
「おばあちんまで殺すことはないでしう?」
「でも……生きていても……意識もないのに……
「かわいそうだた、ということですか?」
……てそうだろう、誰も見舞いにも来ないのに」
「あなたが行てあげればよかたじないですか?」
「それは……
「でも、そうできないことが、あなたにはわかていた。なぜか」
……
「あなた、自殺することを、すでに決めていたんですよね?」
……
「だから自分が見舞いに行けなくなるとわかていた。だけど気の毒になて殺害した」
……そうだ。祖母は……ひとりぼちになちまうから……
「地元に戻り、子供の頃に行た神社の流鏑馬を見、図書館に行き、昔を懐かしんだのも、もう死ぬと決めていたから。それからご両親とお祖母様を殺害し、その後、自殺したと」
……まあ」
「田中太郎さん、いいですか。私は閻魔大王なんです。自分で大王と名乗るのもなんですが。だから隠したて無駄なんです。今ここですべて正直に話すかどうか、そこも見ているんですよ」
「じあ閻魔様、正直に言たら僕は天国へ行けましたか。行けないでしう、地獄ですよね。そうに決まています」
「まあ待てください。さきね、死神のほうから連絡がありまして。ちとした手違いがあたらしいんですよ。つまりあなたの死についてですが」
「はあ?」
「うーん、本当はあの首吊り自殺ね、未遂で終わるはずだたんです。それが書類上の不備で、ちと、間違たみたいで。それで慌てて直したんです」
「え?」
「紐が切れてあなたは死ねなかた、ということになりますんで」
「え?」
「あなたには今から向こうに戻てもらいます」
「生き返るてことですか……?」
「そうなりますね。今回は本当にすみません。あ、赤鬼と青鬼に送らせますから、田中太郎さんはそこでお待ち下さい」
「はあ……
「一回死んだのにこう言うのもなんですが、どうかお元気で。では、また」
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