てきすとぽい
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第51回 てきすとぽい杯
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岩崎さん
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2019.06.15 23:41
字数 : 1443
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岩崎さん
住谷 ねこ
「前の会社の友達がさあ
……
」
「??え?」
深夜のコンビニで、裏で休憩をと
っ
ていたと思
っ
た岩崎さんが
いつの間にか戻
っ
てきて隣に立
っ
てじ
っ
とこちらを見ていた。
「前の会社の友達とね。この間、会
っ
たんだけどさ」
「ああ。うん、はい」
岩崎さんは、いつもこんな風に唐突に話を始める人だ。
26歳の独身で普通のOLさんだ
っ
たけど、ある日突然
仕事ができなくな
っ
て会社を辞めたのだそうだ。
「先月引
っ
越したのね、その子」
「は
ぁ
」
仕事ができなくなるとはどういう状況だろうかと思
っ
て聞いてみると
会社は立体駐車場を売る会社でそこの営業だ
っ
たのだという。
私は今年大学に入
っ
たばかりだし、そんな大きなものを売るというのが
どういうものか想像もできなか
っ
た。
「朝、出勤して夜帰
っ
てくるじ
ゃ
ない?」
「そうですね」
新しく建てるマンシ
ョ
ンとか、ビルとかを作るところ行
っ
て
立体駐車場の設置を提案するのだそうだ。
もう、付き合いのあるところにご機嫌伺に行
っ
たり
もう決ま
っ
ているところに打ち合わせに行
っ
たり
決まりそうなところに見積りを持
っ
て行
っ
たり
……
「なにかねち
ょ
っ
と。違和感があるんだ
っ
て」
「違和感? ですか?」
その運命の日は、夏の昼下がりに
ひとりで初めて大きな仕事を決めて張り切
っ
ているときで
了承を得た見積りを持
っ
て会社に急いで戻
っ
てきた所だ
っ
た。
正規の発注にするための書類を作ろうとPCの前に座りモニター
を見るが
何をしていいのか分からなくな
っ
たのだという。
「たとえば朝飲んだカ
ッ
プが流しに置き
っ
ぱなしにな
っ
てるんだけどその位置が
少しずれてる気がするとか。テー
ブルに載せてあ
っ
たリモコンがテレビの上に載せてあるとか
そうだ
っ
け? と思うようなことがね 毎日、一つとか二つとかあるんだ
っ
て」
「それは、まあないこともなさそうですけど。思い違いというか」
本当になにをしていいのかわからなくて、ぼんやりしていると
先輩にどうしたんだ発注書を作るんだろ?と言われても
発注書
っ
てわかるけど、それをどうするのかとか、どうすれば発注書になるのかとか
言葉ではわかるのになにも出来なくな
っ
て。
そして会社を辞めたのだという。
「その子もそう思
っ
て、気にしないようにしてて
感じない日もあるし、忘れてる日もあるし」
「
……
」
「でもねー
、ある日、電気がついていたんだ
っ
て。
キ
ッ
チンのあの小さいやつ」
「それはつけ
っ
ぱなしにしがちですよね。
うちはキ
ッ
チンのところが一日中、薄暗いんでずー
っ
とついてますよ」
「うん。でもね。球がね、切れてたの一週間くらい。
ち
ょ
っ
と手元にあかりが欲しい時に不便だから替えなき
ゃ
っ
て思
っ
てて
その日、や
っ
と買
っ
てきたんだ
っ
て電球」
「え? やだなんで?」
「それでね。すぐ引
っ
越したんだ
っ
て」
「それは
……
怖いですね。理由は分か
っ
たんですか?
誰か勝手に部屋に入
っ
てたとかそういうことですか?
親が来てたとかそういう落ちですか?」
「
……
……
」
「岩崎さん?」
「
……
……
」
「岩崎さん?」
「鍵、ポケ
ッ
トに入れといた方がいいよ
バ
ッ
グの中じ
ゃ
なくて、いつも持
っ
てた方がいいよ」
「え?」
鍵?部屋の鍵?
バ
ッ
グの中。
黄色と緑のインコのストラ
ッ
プ。
バ
ッ
グは事務所の端
っ
こにお印程度にあるような戸棚に
いくつか仕切りがあ
っ
て名札シー
ルが貼られていてそこに置く。
よくわからない。
なに? なんか気持ち悪い。やだ。
「おつかれさま」
「え??え? あ、はい」
岩崎さんはいつの間にか上
っ
張りを脱いで
バ
ッ
グを持
っ
て帰るところだ
っ
た。
岩崎さんがポケ
ッ
トに手を入れるときにちら
っ
と黄色いチ
ャ
ー
ムが見えた気がした。
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