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第52回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
〔 作品1 〕» 2  16 
利休の器
 投稿時刻 : 2019.08.17 17:01
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利休の器
浅黄幻影


 私が目覚めたのは、十年ばかり前のことだ。主の先生が都の古市で眠ていた私を見つけてくださた。それまでどうして目が覚めなかたのか、それは一向にわからない、
 主はよく私を自慢する。私も鼻が高いことこの上ない。
「どうだい、利休が愛していた茶器だ。質素にして味がある。そう思うだろう?」
「へえ、これが? どのあたりが素晴らしいんで?」
「わからないのも無理はない。みんな、千利休の名前は知ていても具体的に何をどうしたかを詳しく知ている人は、やはり好きなものばかりだから」
「そうですか、で、小林一茶の茶碗はどういいんです?」
「せ・ん・の・り・き・・う!」
 ちとおもしろい。
「ええ、で、利休さんの」
「うん……利休は高い道具を使ていたのをよしとせず無駄なものを捨て、茶そのものを楽しむものにした。まあ、そこが一番有名なエピソードだ。この茶碗にも当時の思いが見て取れる」
 主は本当は詳しくない。私から教えてあげたいくらいだ。
「そうなんですか。いくらです?」
「え?」
「お値段」
「人の話を聞いていたのか。値段で見るものじない。いくらしたかなんて問題じない」
「でも、高かたんでしう?」
……
「百? 二百万」
……七百」
「そんなに! 話が違いますよ」
「いや、歴史的価値とかあるだろう?」
「そもそも本物なんですか?」
 先生は箱を見せた。そういえば、私もなかにいるばかりで見たことがない。
「箱書きて作た人の名前じないんですか? なんで利休?」
「持ち主が書くことだてよくある!」
「こどもみたいな字ですね。あ、鑑定士に見てもらいましう! わかりますよ! 絶対、偽物!」
 これにはカときたらしく、なら見てもらおうとなた。有名な鑑定士にお願いし(鑑定料も高かたらしい)、私は遠路はるばるやてきた。私にはまたく不安なところはない。間違いなく、私は利休に愛されていた。
 箱が開けられ外の光を浴びた。鑑定士のメガネと白いひげが見える。
「これは――
 一瞬、鑑定士の言葉が止まる。
「これは利休ではありません」
「え! そんな!」
 まさか。
「はい、これは陶芸教室で焼いた茶碗でしう。お子さんの作品ですね。時代は昭和から平成にかけてのものです。利休のものではありませんが、見れば見るほど味わいがあります。こどもの手で作た一品です、大事になすてください」
「い、いい仕事は?」
「してません」
 私は箱に戻されるとき、再び眠りについた。
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