てきすとぽい
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第54回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
〔 作品1 〕
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たべばたたべばたかえかえかえたべばた
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2019.12.14 22:47
最終更新 : 2019.12.14 23:45
字数 : 1909
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2019/12/14 23:45:32
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2019/12/14 22:50:28
-
2019/12/14 22:47:51
たべばたたべばたかえかえかえたべばた
犬子蓮木
著名な食通たちを集めて開かれたパー
テ
ィ
。
私はそこに招待されてや
っ
てきた。
パー
テ
ィ
というにはさみしいレストラン。豪勢な飾りもなくただ集められたメンバー
が円卓に座
っ
ていた。
集められた人間は6人。
この世界で働いてきたからにはお互い顔を知
っ
ているし、食通として文句のないメンバー
だ
っ
た。
そんなメンバー
ももうひとり死んでしま
っ
たわけだが。
彼は提供された料理を食べた後、それはもうその料理のおいしさを溢れんばかりに表現したのち苦しんで死んだ。今では椅子から転がりおちて地面に横たわ
っ
ている。
料理に毒が入
っ
ていたのだ。
そう、そのとおり説明も受けた。
この料理は
「世界一おいしく、そして食べたら死んでしまう料理」
だと。
最初の犠牲者は、そんな冗談をと笑いながら、目の前の湯気が立ちすばらしい匂いの料理をおいしそうにほおば
っ
た。一気にたいらげた。
そして死んだ。
この料理がどれだけおいしか
っ
たかを説明したあとで。
残された我々はどうすべきなのか。
眼の前のおいしそうな、しかし見たこともない料理を見て、席を立つことができない。
「どうかされましたでし
ょ
うか?」
給仕のピエロが言
っ
た。
「もしお食事をなさず帰宅されるということでしたら、まー
ことに悲しいですが、もちろんお代金は頂きません。帰宅されて結構です」
そうだ、食べたら死んでしまう毒など食べるわけがない。さ
っ
さと帰るべきなのだ。
しかし
……
。眼の前の料理を見て、つばを飲み込む。
ここに来るまで、今日は何も食べてこなか
っ
た。お腹も空いている。少しだけ、一口だけなら、なんとか入院程度で済まないものだろうか
……
。
隣の若手グルメライター
がスプー
ンを持
っ
た。
みんなの視線が集まる。
「はは、なんですか。食べにくいですよ」グルメライター
が作り笑いを浮かべながら言
っ
た。汗が頬を伝う。「俺、この中で一番、若いですし、ガチ健康なんで、ち
ょ
っ
とぐらい大丈夫ですよ。一口だけ」
そうい
っ
て彼は料理をスプー
ンですくうと口にふくんだ。
口が動く。
飲み込んだ。
目が輝く。
「これ、まじスゲー
っ
すよ」
彼が立ち上が
っ
て言
っ
た。テンシ
ョ
ンがあが
っ
ている。
「ホントに世界一
っ
す。今までこんなうまいもの食べたことない!!」
大丈夫なのだろうか。私は彼の様子を伺う。
グルメライター
がゆ
っ
くりと視線を落とす。目の先にはまだた
っ
ぷりと残された料理がある。
「おい」私は思わず声を出した。
彼が何を思
っ
たかはすぐにわか
っ
た。だが、一口だけと言
っ
ていたはずだ。止めなければ死んでしまう。
私が彼の腕を抑えたところで、彼が私の手を振り払う。
「大丈夫
っ
すよ。もう一口だ
……
け
……
」
グルメライター
が崩れ落ちる。
スプー
ンが床にぶつかり冷たい音を立てた。
結局、彼は死んでしま
っ
た。
どうせ死ぬなら、も
っ
と食べさせてやればよか
っ
た
……
。彼を止めてしま
っ
た後悔が、お腹の奥で気持ちの悪いうごめきとなる。
「もう無理です。帰ります」
向かいに座
っ
ていた女性が立ち上が
っ
た。普段の明るい様子はまるでなく、表情はま
っ
さおだ
っ
た。つかつかと歩き店から出てい
っ
た。
「みなさんはどうされますか?」ピエロが尋ねる。
残りの人間は3人。
「食べてもいいですが、レポー
トを残す時間ぐらいはほしいね。誰にも伝えることができない」ある食通が言
っ
た。
「つまり先生は、ご自身が世界で一番おいしいものを求めているわけではなく、他人に伝えることが大事であるというわけですね」ピエロの表情がかなしげに歪んだ。
食通は顔を赤くして怒り、「失礼な」と店から出てい
っ
た。
残されたもうひとりが口を開く。
「わたしは、誰かに伝えることが一番ではありません。それはお金を稼ぐ手段でした。よりよいものをわたし自身が食べるために」
「では!」ピエロの表情が明るくなる。
「しかし、ここで死んでしま
っ
ては将来、も
っ
と良いものを食べることができません。来年も、10年先も、進化し続けたおいしいものを食べるためにここで死ぬわけには行かないのです」
「つまり先生は、世界で一番おいしいものを食べずに、み
っ
ともなく老いて死ぬわけですね」
「それで結構です」
立ち上が
っ
て退出した。
「とても悲しいことです。みなさん帰宅されてしまいました。どうしてこの世界一おいしい料理を食べていただけないのか」
ピエロが涙を流す。手で目を拭
っ
て、その影から私を見た。
「お客様はどうなされますか?」
眼の前の料理を見る、
今までに見たこともないおいしそうな料理。
信頼できる舌を持
っ
た人間たちが、おいしそうに食べていた。
足元を見る。
死んでしま
っ
た二人。
つばを飲み込む。
ゆ
っ
くりと口を開いた。
「先にワインをもらえるかな。それから料理を温め直してほしい」
ピエロがにんまりと笑
っ
た。 <了>
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