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第56回 てきすとぽい杯
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願いを。
 投稿時刻 : 2020.04.18 23:29
 字数 : 850
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願いを。
ポキール尻ピッタン


 歯の裏に書いてある数字を確かめて、ひとつひとつ丁寧に歯茎へ差し込む。カチとロクした音が前頭板に響いて不意に水琴窟を連想した。閉所の音は反響を拡大するが、想いも同じく閉じ込められた分だけ拡大する。1年後の再会を待てずに自分を復元している私は、さぞかし滑稽にうつるだろう。新調した頭蓋パーツに皮膚がなかなか馴染まない。指で触れると空気が逃げる鈍い音がする。説明書では24時間後に固着すると書かれていたがどうにも不安だ。私はちんと私に戻れるのだろうか? 左目のカメラを外すとコネクターがわずかに錆びていた。故障したら交換すればいいのでメンテナンスが疎かになりがちだ。反省をしながらスペーサーに人間型の眼球を嵌め左目に押し込んだ。眼球のドライバーを脳がダウンロードすると視界が立体的に広がる。新しいだけあて、以前の眼球よりも色が鮮やかに見えた。脳内に過去の自分を投影しながら鼻と耳の取り付け位置を調整する。映像と同じ場所なのに、不思議とかつての自分とは違う顔に思えた。髪の毛はどうしようか? 見栄を張て増毛しようか? 君と別れた日と君に出会た日では多少容姿に違いがあるだろう。解凍後は記憶が混濁するらしいから、若作りしたほうが私を思い出してくれるかもしれない。増毛の言い訳を考えながら、私は昔のような笑顔を再現する練習をしていた。

 君を冷凍保存してから127年が経た。私は老化に勝てずいまではすかり機械の体だ。普段の私はキブ状で、自分の脳を計算に使う仕事をしている。君が目覚めると知た日に少しずつ貯めていた希少金属を交換し、人間型の体を注文した。自分で組み立てなければいけないのは不便だが、安価な分クオリテが高い製品を入手できた。家具だて、あの頃暮らしていた家を再現している。

 私たちはもう一度愛のある生活を始める。私は過去を完全に復元した。でも私は機械なのだ。現在の延長をシミレートできるが気持ちが変化する未来までは計算できない。未知の未来を君に教えてほしいのだ。私を助けてほしいのだ。
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