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第56回 てきすとぽい杯
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夜はまだ寒いから
 投稿時刻 : 2020.04.18 23:39
 字数 : 619
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夜はまだ寒いから
王木亡一朗


 目覚める瞬間の、
 ひとつ手前。
 真夜中と朝のはざま。

 夜はまだ寒いから、毛布の端こを掴んで肩までくるまる。
 この温もりが体温だけで出来ているなんて信じられない。
 心地の良い温かさ。
 もうすぐ、隣で寝息を立てている小さな人が、起き上がてくるころかもしれない。起き上がて、私の瞼を開こうとする。小さな指でそと。目を開けば、人が起きるて思ているみたい。そうやて少しずつ学んでいる。どんどん大きくなて目が離せないから、余韻だけが過ぎ去ていてしまう。
 ときどき何かに気がついたように、天井を見つめながら、ハとする顔。屋根裏の幽霊でも見えているのかな。
 カーテンの隙間から差し込む光が、色を変えていく。オレンジから白く、青に変わるまでの。
 淡々と流れる時間が、寝息が、たぷりとしたリズムを伴て、身体中に響いている。あんなに夜を怖がていたのに。それとも、朝また立ち上がるための力を蓄えているのかな。

 もうすぐ朝、でもまだ夜。

 夜はまだ寒いから、毛布の端こをそと掴んで、小さな肩まで上げる。体温を感じて、この小さな人を、まだ起こさないように。私の瞼をつまむ小さな手のために、私もまだ眠ていよう。
 一年前、君はまだお腹の中にいたんだよ。一年後には、おはようて言う君の声を聞けるだろうか。微睡みの中で、君の体温が微かな香りみたいに鼻をくすぐる。
 
 これまでの毎日を、一秒ずつ思い出していく。
 小さな手、つないで、辿る軌跡。
 朝が来る、その前にできること。
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