てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第56回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
…
〔
5
〕
〔
6
〕
«
〔 作品7 〕
»
〔
8
〕
〔
9
〕
…
〔
15
〕
夜はまだ寒いから
(
王木亡一朗
)
投稿時刻 : 2020.04.18 23:39
字数 : 619
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票
夜はまだ寒いから
王木亡一朗
目覚める瞬間の、
ひとつ手前。
真夜中と朝のはざま。
夜はまだ寒いから、毛布の端
っ
こを掴んで肩までくるまる。
この温もりが体温だけで出来ているなんて信じられない。
心地の良い温かさ。
もうすぐ、隣で寝息を立てている小さな人が、起き上が
っ
てくるころかもしれない。起き上が
っ
て、私の瞼を開こうとする。小さな指でそ
っ
と。目を開けば、人が起きる
っ
て思
っ
ているみたい。そうや
っ
て少しずつ学んでいる。どんどん大きくな
っ
て目が離せないから、余韻だけが過ぎ去
っ
てい
っ
てしまう。
ときどき何かに気がついたように、天井を見つめながら、ハ
ッ
とする顔。屋根裏の幽霊でも見えているのかな。
カー
テンの隙間から差し込む光が、色を変えていく。オレンジから白く、青に変わるまでの。
淡々と流れる時間が、寝息が、た
っ
ぷりとしたリズムを伴
っ
て、身体中に響いている。あんなに夜を怖が
っ
ていたのに。それとも、朝また立ち上がるための力を蓄えているのかな。
もうすぐ朝、でもまだ夜。
夜はまだ寒いから、毛布の端
っ
こをそ
っ
と掴んで、小さな肩まで上げる。体温を感じて、この小さな人を、まだ起こさないように。私の瞼をつまむ小さな手のために、私もまだ眠
っ
ていよう。
一年前、君はまだお腹の中にいたんだよ。一年後には、おはよう
っ
て言う君の声を聞けるだろうか。微睡みの中で、君の体温が微かな香りみたいに鼻をくすぐる。
これまでの毎日を、一秒ずつ思い出していく。
小さな手、つないで、辿る軌跡。
朝が来る、その前にできること。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票