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一例として「淳史が帰ろうとつつく。~風の入らない窓が薄赤くなってきた夕暮れ。」の部分。
黙って帰るのも気が引けると主人公は考えますが、意識はあきらかに部屋の外へと向いています。はっきりとは書かれていませんが、帰りたいという思いの強さが伺える描写です。
この作品の素晴らしさは、主人公に気持ちを語らせるだけではなく、こういった主人公の意識、主人公の目に映る情景から選択された物で読者に心情を想像させる巧みな技術にあります。
登場人物が知る以外の情報を作者は提示しません。あくまでも登場人物と同じ目線で、同じ心の揺らぎを書き綴っています。読みながら作者の存在を忘れて主人公の想いを追うことができました。
完成度の高い、正しく私小説でした。お見事です。