これは愛かもしれないしそうじゃないかもしれないなにかわからないけど抗えないきもち。
ず
っと腕立て伏せのかっこのまま
泣きじゃくる彼女を見下ろしていた。
その前から小さく泣いてはいたんだ。
泣いている女をどうにかしようなんて趣味はないし
嫌がる彼女とホテルに入ったわけじゃない。
ずっと前から、折に触れて付き合ってる奴との
すれ違いや、闇やらいろいろ聞いていて
まあ、男側から一言でいえば倦怠期だ。
彼女の方にはまだまだ倦怠期は来てなくて
その温度差が彼女を不安定にしてた。
最初は、めんどくさい女だなぁと思って話を聞いていたけど
聞いているうちに こんなに思われてんのにそいつなんなの?
って気持ちになって。つまりは好きになっちゃったみたいなんだよね。
冷たくされて泣いてたり、怒ってたり
楽しい時間を過ごして嬉しそうに自慢そうに話してたり
そんなにいろんな感情を見せてくるのに
俺の事なんてちっとも見てないと思ったらなんだかたまらない気がしたんだ。
それで最近は自分をアピールしていた。
彼女の気持ちに寄り添って応援したり慰めたり
そして最後には必ず、「そんな奴、もうやめて俺にしなよ」って言い続けた。
そんな奴、俺にとってはくそ野郎だ。
本気だった。
こんなに好きになったのは二度目だ。
初めてって言わないところが本気度を表してると思うんだ。
彼女がしてほしいことは全部してやるつもりだったし
彼女が来てって言ったら深夜だってどんなに距離があったって
すぐに駆け付ける覚悟もあった。
そうやって何度か会って泣き言を聞いていて
ついに「もうやめようかな」って言わせることに成功した。
「俺と付き合う?」「うん」
「ほんとに?」「うん」
「俺のこと好き?」「うん」
何度も何度も確認し、好きだって何度も言って
もう電車もなくて泊まることになって
それでホテルに入った。
彼女はすぐに抱きついてきた。
だけどさっきの今だ。
「やめようかな」って言ったからって
まだ相手には何も言ってないんだし
彼女の気持ちがちょっと自棄になってて
俺はそれに付け込んでるだけだ。
できれば今日は、何もしない方がいいと思っていた。
本当に好きになって付き合うことになって
そういうのでなければいやだった。
それくらい本気で好きになってた。
「今日、今じゃなくてもいいよ」
「ちゃんとほんとに別れてもう一度考えてからでいいよ」
最後まで言う前に口をふさがれた。
彼女のキスは乱暴で乾いていて
甘くて重い。
いいんだな。あとでいやだって言っても知らないからな。
そんな気持ちで腕に力をこめた。
悲壮感漂う彼女にキスをして
うるんだ目から涙がこぼれないように
服をぬがせるのは難しい。
泣くのを我慢して熱くなっているその首筋の
匂いをかいで髪を撫で。
手を進めれば進めるほど罪悪感のようなものがこみ上げる。
こういうのを白けたっていうのかな。
ちょっと違うな。嫌になったわけじゃなくて冷静になったんだ。
つきあいたいならやっぱり今じゃないなって改めて思ったんだ。
「やめよう、やっぱ今日はやめとこう」
彼女は何度も首をふりながら「いいの」「へいき」を繰り返し
いま彼女から体を離したら傷つけるんじゃないかと思うと
やめることもできなかった。
でも結局、いざ。
ついに。
というところで 涙腺は決壊し声を上げて泣いていた。
かといって逃げるでもない彼女に自分も
どうすることもできないで
体重をかけないようにするのに必死だった。
あーあ。しょうがないな。
しょうがない俺。
しょうがない彼女。
しょうがないくそ野郎。
もう少し落ち着いたら
もう少し泣き声が小さくなったら
そっと離れよう
それからここを出て
何か暖かいものでも飲んで
タクシーで送っていこう。
それで「またね」って言おう。
ものすごくバカみたいだけど。
彼女が俺を要らないと思うまで
いつでも応えられる姿勢でいようと思った。
ほんと、すごくバカみたいだけど。
そうしようと思った。
今は。