てきすとぽい
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第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・前編〉
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俺達は何度でも転生する
(
アコース@投稿用
)
投稿時刻 : 2020.08.09 02:12
最終更新 : 2020.08.09 02:18
字数 : 2500
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2020/08/09 02:18:15
-
2020/08/09 02:12:17
俺達は何度でも転生する
アコース@投稿用
それは今から300年も前の出来事だ
っ
た。当時の俺は、女で、辺鄙な農村に生まれ、貧しいながらも日々に楽しみを見出し、いずれは同村の誰かに嫁して、畑と家を守り一生を終えるものと思
っ
ていた。
魔王復活の報が、この田舎村にも届いてはいたが、まるで遠い世界の話だ
っ
た
――
あの日、王宮からの使者が四頭立て馬車で俺を連れ去るまでは。
「王立占星院による卦にて、貴女様が当世唯一の勇者であると判りました」
野良着の自分と、使者の豪奢な衣服との、恐ろしいまでの格差に言葉も発せずにいた俺に、使者は淡々と告げた。
「世界の存亡が、貴女様の肩にかか
っ
ております」
口数少ないのが作法なのか、勇者についても、占星についても、「詳しい話は王都に着いてから」としか答えてくれなか
っ
たが、子供の頃に読み聞かせられた歴代勇者の物語を思い返し、ワクワクを募らせながら、俺は馬車に揺られた。
(え
っ
もしかして私、女勇者!? 女で勇者
っ
て、史上初なんじ
ゃ
ないの?)
……
この後、王都で何が待ち構えているかも知らずに。
王立占星院の長として紹介されたのは、意外にもまだ若い男だ
っ
た。この歳で大賢者の称号を持ち、魔王討伐隊にも同行するという。縁のないメガネをかけた眼の奥が、俺の姿を見るなり、あからさまに曇
っ
た。
「せ
っ
かく来てもら
っ
たのですが」
王や大臣らに促され、彼はその理由を語り始めた。
「勇者は、男しかなれません」
「え?」
「男しかなれません、だから君はなれません」
「
……
いやそう言われましても。世界、滅ぶんでし
ょ
?」
「ええ。お互い残り少ない人生ですが、せめて充実した余生を
――
」
「いや待
っ
て待
っ
て。何か、方法とかないんですか?」
「
…………
。男装してみる、とか」
学識のある人も、こんな時に冗談を言
っ
たりするんだなあ、などと変な感心をしているうちに、あれよという間に支度が整えられ、メイド達が寄
っ
てたか
っ
て俺を「男装」させてしま
っ
た。
「いやさすが
っ
、王宮の皆サマは、冗談ヒトツ言うにも本気度が違
……
」
あはは、と言いかけて、メガネ賢者の有無を言わせぬ眼差しと目が合
っ
た。慌てて目を背けても、もう遅い。
「よくお似合いです、勇者殿」
そんなこんなで魔王城に辿り着いてみれば、グロテスクに飾られた玉座に身をもたれていたのは、人間にして齢6
~
7歳ほどの幼女だ
っ
た。ただしその頭部には奇
っ
怪にねじ曲が
っ
た角が一対生えていて、物憂げな瞳は金色に明滅し、もちろんただの幼女であるわけがない。
「ぬしが勇者か」
悠然というよりは、むしろぐ
っ
たりと、玉座にもたれかか
っ
た幼女は言
っ
た。
「そうだ。お前が魔王で間違いないな?」
「いかにも。ぬしは、余を封じ込めに参
っ
たのじ
ゃ
な」
「わか
っ
ているのなら話が早い。世界に平和を取り戻すため、覚悟しろ、魔王!」
「
……
うむ、疾くや
っ
てくれ」
「
…………
は?」
幼女魔王は億劫そうに身じろぎし、あくまで物憂げに言
っ
た。
「今さら世界征服など、面倒でのう。正直、200年くらい眠
っ
ていたいんじ
ゃ
」
正直、脱力もいいところだが、こちらから断る理由もない。
その後の駆け引きで、200年を300年に延ばしてもらい、俺達は何というか円満に、魔王封印の儀式を行
っ
た。
直接対決がなか
っ
たとはいえ、国に戻ればやはり俺達は、魔王を封じた英雄とな
っ
た。凱旋パレー
ドが幾日も続き、王宮と神殿に接待攻めにされながら、魔王のいない平穏を束の間満喫した。
前々世や前々々世に、自分が同じく勇者であ
っ
たことを思い出したのは、この頃のことだ。だが、それだけだ
っ
た。魔王の脅威は去
っ
たのだから、今さら大昔の記憶が役立つこともない。それはむしろ喜ばしいことに思えた。
その後の顛末は、今思い出しても理不尽という以外にない。勇者の役目は終わ
っ
たのだし、落ち着いたら男装を解いて、人並みに暮らせるものとばかり思
っ
ていた。
「なりません」
またしてもメガネ賢者だ
っ
た。
「星の配置が変わ
っ
てしまいますから」
「は
ぁ
、どういうこと?」
「勇者は勇者のまま、この地に留まり続けてもらわねば、また別の魔王が出現してしまうのです」
「あのー
、ダメ元で確認なんですけどー
、必要な時だけ男装する
っ
てわけには」
「いきません」
食い気味に断じた賢者の言葉が、前世の俺のその後の一生を決定した。
今だから言う、この無愛想で何かと屁理屈なメガネ賢者のことが、俺はち
ょ
っ
ぴり好きだ
っ
た(あくまで昔の話である。当時の俺は心の芯まで女だ
っ
たのだ、そこは誤解しないでほしい、くれぐれも!)。
もちろん、告白だの交際だのができるはずもない。何しろ相手は、片時も男装を解くなと俺に指導するような、生粋の占星学ヲタクで、一方の俺はといえば、これがようやく初恋という有様の、まだほんの10代の少女だ
っ
たのだ。
20代を過ぎ、30代を迎えても、勇者としての俺の立場は変わることなく、俺は生真面目に男装を続けたまま、高齢処女になり、老齢処女とな
っ
た。
代わりに、ということなのか、俺には男装の並ならぬ才があ
っ
たらしい。生涯ただの一度も女とバレることなく、むしろ女性には大層モテた。女に生まれたのが残念になるほど、モテまく
っ
た。
実を言えばこれは魔王討伐隊の頃からで、同行した女魔導士(ツンデレ・スレンダー
、見方を変えれば貧○)と、女神官(清楚で慎ましやかだが脱いだら凄そう)、帰国後には王女(ち
ょ
っ
ぴりお転婆ハコ入り娘)までもが加わ
っ
て、四角関係に発展したほどだ。
喜ぶべきか悲しむべきか、しかし深い仲になるわけにもいかず、やんわり躱し続けているうちに、やがて三人とも別の伴侶を見つけ、俺の元を去
っ
てい
っ
た。
実際、当時の俺は世界を見渡しても、最も女性に惚れられ、最も女性に去られた女、だ
っ
たろうと思う。
晩年にな
っ
てもそれは変わらず、数多の女性に寄られ、去られながら、虚しさと孤独を胸に、長い生涯を閉じた。
これが前世の俺の、聞くも涙、語るも涙の一生だ。
死の間際、俺は、神に強く強く祈
っ
た。どうか来世は、来世こそは、男に生まれさせてくれ、と。勇者をまたやらされてもいい、今度こそ魔王と対決させられてもいいから、次こそは、何があ
っ
ても、絶対に、男! 男だ! 男にならせてくれ!
――
続く
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