てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第14回 文藝マガジン文戯杯「花言葉」
〔
1
〕
〔
2
〕
«
〔 作品3 〕
»
〔
4
〕
〔
5
〕
…
〔
6
〕
花を授ける
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2021.01.31 11:05
最終更新 : 2021.01.31 18:03
字数 : 1664
1
2
3
4
5
投票しない
感想:6+
ログインして投票
更新履歴
-
2021/01/31 18:03:46
-
2021/01/31 11:48:59
-
2021/01/31 11:28:23
-
2021/01/31 11:05:54
花を授ける
住谷 ねこ
クスクスクスクスクスクスククスクス
「今日はどうする?」
「何人?」
「三人かな。女の子がふたり。男の子がひとり」
「しりとりの続き」
「なんだ
っ
た?」
「この子だよね。この目の下にほくろがある子。ヤマブキにしたんだよ」
「じ
ゃ
ー
、次はキからね」
病院だけど、なんとなく明るい感じがするのは
壁紙が柔らかなクリー
ム色でクマや、ウサギの絵が
浮き出たような模様だ
っ
たり
そこかしこにぬいぐるみが置いてあるからだけではなく
新しい命はエネルギー
に満ちていて
さあ、これからだよ
っ
て空気が流れているからかもしれない。
新生児室と書いてあるその部屋は消灯後も、う
っ
すらと灯がとも
っ
ている。
透明な小さなベ
ッ
ドに寝かされたあかんぼが十人。
そのうちの三人は今日生まれたばかりだ。
今日の子に花を授ける。
「キク」とAが言う。
すかさずB、「え?なに、いきなりキク?」
「いいじ
ゃ
ない。キク。 次はクね? く、く、くー
」特に気にしないK。
「いや、ち
ょ
っ
と待
っ
てよ。キク
っ
てさお墓とか仏壇に供えるよね」Bは納得しないようだ。
「別にそうとも限らないよ。いつどこに飾
っ
てもいいと思うよ」とKが。
「いやいやいや、や
っ
ぱり死が隣にあるイメー
ジでし
ょ
う。キクは仏花でし
ょ
う」Bはキクが気に入らないよう。
「プリテ
ィ
リオとか、レオンとかの洋菊もあるよ。ロマンチ
ッ
クガー
ルとかどうよ?」とK。
「まあまあふたりとも」
「なにがまあまあだよ。Aがキクなんて言うからじ
ゃ
ない」
「だ
っ
て。この子」 とAとBとKの中央にはあかんぼ。
ほゆほゆとした少しの髪
産道に擦れて少し赤くな
っ
ているほ
っ
ぺた
ぎ
ゅ
っ
と握
っ
た小さな手には
砕いたアー
モンドみたいに小さな爪がち
ゃ
んと
ひとつづつ。
「この子、見たら絶対キク
っ
て思
っ
たんだもの」と、A。
「そおかな
ぁ
。そお?」Bはそうだ、とも違う、とも決めかねる。
A「絶対そうよ。ピンクのキクのイメー
ジ」
B「うー
ん」
K「いいんじ
ゃ
ない?ピンクのキク。花言葉は甘い夢」
A「へえ。そうなんだ。いいじ
ゃ
ん。ぴ
っ
たり」
B「ふー
ん。そうなの?ロマンチ
ッ
クガー
ル?」
K「ロマンチ
ッ
クガー
ルに限らず、ピンクのキクは甘い夢」
B「じ
ゃ
、いいわ。それで」
そういうとAとBとKは同時に中央のあかんぼに手をかざし、祝福あれとつぶやいた。
B「じ
ゃ
、次はクね。Kでし
ょ
?」
今度は隣のベ
ッ
ドを取り囲む。
K「クロ
ッ
カス、クロ
ッ
カスはね
ぇ
青春の喜びと言う花言葉がついているよ」
A「なんで急に花言葉なのよ。昨日はただのしりとりだ
っ
たじ
ゃ
ん」
K「しりとりもいいけどさ。同じ音から始まる花はいくつもあるじ
ゃ
ない?
その中のどれにするかの参考になるかな
ぁ
と思
っ
て」
A「まあこの子も言われてみれば青春
っ
て感じの顔だよ」
B「あそ。じ
ゃ
次、わたしね。ス。スミレ」
K「何色の?」
B「え?色?スミレは紫でし
ょ
う」
K「じ
ゃ
ー
、貞節と愛だ」
A「えー
ー
ー
っ
この子男の子なのに」
K「男の子じ
ゃ
ダメなの?」
A「だめじ
ゃ
ないけど、男なのに貞節と愛だなんて窮屈そうじ
ゃ
ん」
B「わか
っ
た。じ
ゃ
黄色は? 黄色はあるの?」
K「あるけど」 ち
ょ
っ
と不満気なK。「田園の幸せとか、つつましい喜びとか」
AもBもKも。
「東京なのにね
……
」「素朴だ
……
」「地味かな
……
」
「まあいいんじ
ゃ
ない?」
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス。
そうしてまた、 手をかざし、祝福あれとつぶやく。
「じ
ゃ
、また明日。明日はレからね」
「Aの番からね」
「レ、レ、レ レね」
見まわりの看護師が二人。
「今日、生まれた女の子のおかあさん、母乳の出が悪いんだ
っ
て」
「ど
っ
ちの女の子?」
「えー
と、あれ?男の子のおかあさんだ
っ
たかも」
「一応、もう一度確認しとこうか」
新生児室のドアを開ける。
「え?あれ?ち
ょ
っ
と花の匂いする」
「え? 花?」
「花かな。草かな。なんかいい匂い。自然の匂い」
「そお?私しない、鼻悪いからかな」
「鼻、悪いんだ?」
「うん。悪い」
「あ。気のせいかも、もうしない」
「そういえば、婦長さんもそんなこと言
っ
たことあ
っ
た。
なにか匂いしない?
っ
て」
「へ
ぇ
」
「花とは言
っ
てなか
っ
たけど」
「へえ」
【了】
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:6+
ログインして投票