てきすとぽい
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第14回 文藝マガジン文戯杯「花言葉」
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〔 作品6 〕
クローバー
(
押利鰤鰤@二回目
)
投稿時刻 : 2021.02.14 10:31
字数 : 1555
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クローバー
押利鰤鰤@二回目
結婚をする事に伴
っ
て引
っ
越しをする事になり、僕は休日を利用してと言うか、引
っ
越しを明日に控えて大慌てで荷物の詰め込みに追われていた。
荷物の量はそれほどでも無いのだが、やはり一人の人間が移動するとなると、どん詰まりまで何もしない性格が災いして大変な事にな
っ
ている。
床に一枚の古びた紙が落ちているのを見つけた。
「これは
……
」
いつしか無くしたと思
っ
ていた、四つ葉のクロー
バー
の押し花。
小学校六年生の頃にクラスメイトだ
っ
た山田華子がくれたものだ。
正確には僕も昼休みに学校の校庭で探すのを手伝
っ
た上で見つけたものだ。
当時の思い出が蘇る。
「ね
ぇ
、知
っ
てる?クロー
バー
の葉
っ
ぱの枚数のギネス記録は五十六枚なのよ」
山田は僕の方を見る事もなく、必死な形相でクロー
バー
こと、白詰草の群生している校庭の端をし
ゃ
がみ込んでまさぐ
っ
ていた。
山田とは特別に親しい訳ではなく、ただの時々話をするクラスメイトと言う関係だ
っ
た。
家が貧乏らしく、毎日同じトレー
ナを着てくるので、クラスメイトからいじめを受けていたことがあり、それを庇
っ
てあげて、いじめが止ま
っ
た事があ
っ
たくらいだ。
「五十七枚のクロー
バー
を見つけてギネス記録でも狙
っ
ているの?」
僕は無理やり手つだわされていたので、少し不満げに答えたのだけれど、彼女は別に気にしていない様子だ
っ
た。
「そう言うわけでも無いけれど、見つけたらすごいと思わない?何でもできそうな気がするでし
ょ
う?だ
っ
て七枚のクロー
バー
でも、発生率は二億五千万分の一なのよ?」
では五十七枚となると、それはもう天文学的数字になるのでは無いだろうかと思
っ
た。
それはもう存在しないに等しいのでは無いだろうかと。
「あ
っ
た‼︎」
彼女が突然叫んだ。
「五十七枚があ
っ
たの⁉︎」
僕は駆け寄り、彼女の手を見ると指に詰まれていたのは四つ葉のクロー
バー
だ
っ
た。
「なんだ、四葉のクロー
バー
じ
ゃ
無いか」
「これでいいのよ」
彼女は嬉しそうな目で四葉のクロー
バー
を見つめてそう言
っ
た。
「これあげる」
そう言
っ
て、彼女は昼休みの終了を知らせる放送と共に教室に帰
っ
て行く。
僕はその後ろ姿を見ながら、この行為に何か意味があると言うことを、いくら鈍感な僕でも気が付いてはいた。
ただそれがどんな意味を持つ事になるかは解らない。
ネ
ッ
ト環境もなか
っ
たので花言葉という発想に僕は到達しなか
っ
た。
少なくといもその時点では。
彼女に直接聞くという方法もあ
っ
たのだが、翌日から彼女は学校に来なくなり、噂によると父親が事業に失敗し、家族で夜逃げをしたらしい。
彼女と再び出会うのは小学生の僕からしてみれば、まさに五十七枚の葉を持つクロー
バー
を見つけるに等しい事だと思えて、彼女に貰
っ
たクロー
バー
を押し花にした僕は、それを時々見ては悲しくな
っ
た記憶を思い出す。
「ち
ょ
っ
と、全然片付いてないじ
ゃ
無いの。明日から一緒に住むのに何や
っ
てんのよ」
僕の婚約者である彼女が部屋に突然入
っ
てきてそう言
っ
た。
「四葉のクロー
バー
の花言葉
っ
て知
っ
てる?」
僕は手元の押し花を彼女に見せながら聞いてみた。
「
……
さ
ぁ
、昔は知
っ
ていた様な気がするけれど、覚えてないわ」
彼女はバツが悪そうに僕から目を逸らしてそう言
っ
た。
「英語では真実の愛、日本語では私を思
っ
てとか、他にも色々あるけれど、初恋の人に送るとか花とかがあるらしいよ。くれた人にいつか聞いてみたいと思
っ
たんだけど。山田華子さん?」
会えなくな
っ
た時は、二度と会えないと思
っ
ていた。
だけど、ネ
ッ
トが普及して実名登録のSNSが登場してきて、僕と彼女は再会できた。
その後なんやかんやあ
っ
て付き合うまうまでにはそう時間はかからなか
っ
た。
結婚式を一月後に控えて明日から一緒に暮らす訳だけれどその前に是非とも聞いておきたい。
彼女は恥ずかしそうに、一言だけ言
っ
た。
「復讐よ」
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