第61回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動9周年記念〉
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春色、桜色。
風原凛
投稿時刻 : 2021.02.14 00:13
字数 : 746
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春色、桜色。
風原凛


 また今年も春が来た。枯れ草を掻き分け若葉がそと顔を出し、春風に乗て花粉が宙を泳ぎ、桜色に染また君がひこり僕の元にやて来る。だから春は好きだ。今日は待ちに待た彼女が来る日。待ち遠しい僕はテレビを見ても、スマホを弄ても落ち着かなくて、スリパも履かずに冷たいフローリングの上をうろうろと歩き回ていた。壁に掛かた時計の針は昼間の2時を指している。いつもお昼頃には着くのに、遅い。道でも混んでいるんだろうか。疲れて座たソフの前、低いテーブルの上に置きぱなしのスマホを見ても、ロク画面には何の通知もなかた。

「は…………まだかな

 ソフの背にもたれ天井を仰ぎ見たその時。ピンポーン、とチイムが鳴た。僕は握ていたスマホを放り出し、玄関へと走る。ドアを開けると、君がいた。僕は何も言わずに彼女を抱きしめ、そしてすぐに彼女を部屋に招き入れた。

「よかた、来てくれたんだね。待てたよ」

 リビングに戻り、二人してソフに腰を下ろす。はにかんでうつむく君に、僕は優しく声をかけた。怒てなんかないとわかて欲しかたからだ。そこでやと彼女はかわいい顔を隠すマスクを外してくれた。桜色に染また丸い頬が愛らしくて、僕はそこに口付け…………歯を立てた。彼女の皮が裂け舌が微かな甘味を感じる。それをもと味わいたくて、僕はとうとう彼女を丸呑みにした。彼女の血肉は優しいのに重くて、癖になる甘さだた。

…………うん、やぱこれだな。春て感じするわ」

 彼女が纏ていたほのかな桜の香りが、僕の鼻を抜けていく。口の中の彼女をゆくり味わい尽くした後、僕は指についた白い粉をぺろりと舐めとた。ソフの上に広げた白い化粧箱の中には、行儀よく並んだ桜色のまんじうがまだまだ沢山あた。
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