第62回 てきすとぽい杯
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青春スパイダーウェブ
投稿時刻 : 2021.04.17 23:35
字数 : 2280
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青春スパイダーウェブ
犬子蓮木


『この手紙は最後まで読まないでください。続きは話が済んでからお願いします』

 高校。授業が終わり帰ろうとした紀平馬音が下駄箱をあけると手紙が入ていた。それも2通。ひとつは白い横の封筒に赤いハートのシール、スマホ全盛の今ではもうめずらしいけれどイメージはどこかで見たことがあるようなラブレターらしきものだた。
 もうひとつは白い縦の封筒に筆書きで『果たし状』と書いてあた。スマホ全盛……いや、そんなことは関係がなくまともに生きていて普通もらうことのないものだろう。
 馬音は、とりあえず帰宅するのを中止し、ひとけのない校舎の影へ移動した。そうして読んだ手紙に書いてあたのがさきの文章のわけである。ちなみに書いてあたのは果たし状の方だ。
 もう一方のラブレターらしきものももちろん読んだ。
 しがみこんでいた馬音は複雑な表情で2通の手紙を見つめている。
 手紙の内容としては今日の16時に体育館裏へ来てほしいとのことだた。ちなみに書いてあたのは両方の手紙だ。果たし状にもラブレターにも同じ時間に同じ場所に来いと書いてある。それからどちらの手紙にも名前は書いてなかた。
 スマホを取り出して時間を見る。
 手紙を読んで悩んでいるうちに該当の時刻が近づいていた。
 馬音は、息を吐き出す。立ち上がり体育館の方へ向かて歩いていた。

 馬音が物陰から体育館裏を伺う。二人いるのが見えた。会話などはない。お互い気まずそうにちらちらと見つつ、視線をあわせないようにしていた。
 ひとりはかわいい感じの女の子だた。もうひとりは茶髪に染めたヤンキー風の男だ。
 馬音が体育館裏の二人のもとへ歩み出る。二人の表情が変わり、どちらがラブレターで、どちらは果たし状なのかはすぐにわかた。
「あんた、わたしが勝たら先輩と別れなさい!」
 さきまでかわいかた女の子の表情に憎悪が溢れていた。
「紀平さん、俺と付き合てください」
 顔を赤くしたヤンキーが体を折り曲げて深く頭を下げた。
「意味わかんないんだけど」馬音が話そうとする。「なにこれ?」
「あなたが負けたら先輩と別れて」
「付き合てる人いるんスか?」ヤンキーが顔をあげる。
「いないけど……、先輩て誰よ?」
「山刀文樹先輩です。生徒会長の」
「知らないよ、そんなやつ」
「だて先輩があなたのこと調べてて。好きなものとか知らないかて」
「フミキの奴と付き合てるんスか?」
「知らないてば」
「おい、どうなてるんだ」物陰からメガネをかけた男子が現れる。
「先輩!」
「フミキ! お前、紀平さんと付き合てるのか? 応援してくれるてのは嘘だたのか」
「何いてんだバカ」山刀生徒会長が言う。
「会長、だて私に紀平さんのこと聞いてきて」
「幼なじみのこいつが告るて言うからなにかいい方法ないか手伝てたんだよ」
 女の子の顔が笑みにあふれていく。
「じあ、この人と付き合てないんですね」
「ないよ」
「じあ、わたしと付き合てください」
「いや、それは嫌だけど」
 女の子の顔が蒼白になる。体が今にも崩れ落ちそうだた。
 その横で、ヤンキーが目を輝かせていた。
「紀平さん、俺と付き合てください。いま、フリーなんスよね」
「いや、嫌だよ。フリーでも」馬音が頬を赤らめて言う。「そ、その……好きな人いるし……
 ヤンキーが落ち込む。
「おい、なに騒いでるんだ」教師がやてきた。「こんなところに集まていじめやケンカじないだろうな」
「ち、違います」馬音がすとんきうな声を出した。目を輝かせて言う。「岸先生、わたしはもうケンカは辞めました」
「ならいいが、その誓いを信じているからな」
「はい!」まぶしく元気な声。
 女の子が「あ」という表情を見せる。
 山刀が「あ」という表情を見せる。
 ヤンキーはうつろな目をしてうなだれていた。
「南谷もいたのか」
「なによ、澤にいちん。ほといて」
 つけんどんな対応に澤教師はとまどう。
「ご兄妹ですか?」山刀が言た。
「いや、近所の子だ。親の仲がよくてな、昔、よく遊んでやたんだ」
「いい、お兄さん役だたのですね」馬音が先生に近づいて言た。
「遊んでやたのはこちだけどね、澤にいちん、友達が少なくて」
「おい!」
「もう帰る」女の子が言た。目を少し赤くしている。
「おい、泣いてるのか? 本当に何もなかたんだろうな」
「いじめはなかたです……」と山刀、言葉が詰まる。「ただ……
「わたしが先輩に告てフラれただけ!」
 澤教師の顔がやてしまたとばかりに崩れる。
 山刀が「あ」という表情を見せる。
「ごめん、俺はただお前のことが心配で……。おばさんにも頼まれてるし。それに大切な……
「うるさい! もう澤にいちん、あち行てよ! 大嫌い!」女の子が走て去ていた。
 その言葉に教師の顔が真青になる。伸ばした手はまたく届かない。
「行いましたね」馬音が教師に近づいた。「先生、どうしました? 顔色が悪いですよ」
「いや、なんでもない……
「そうだ、先生、聞いてください。この前ですね……
 山刀が、わずかに後退りして教師と女の子から離れるとヤンキーに近寄た。ヤンキーがつぶやく。
「フミキ、俺、ダメだたのかな」
 山刀がうなずく。
「好きな人いるらしいから。残念だたな」
「そ……。どんなやつだろうな、すげーやつなんだろうな」
「さあな、わかんねーよ」山刀が笑う。「帰ろうぜ、どか寄てくか。おごるよ」
「いつもありがとうな」ヤンキーが涙声で言う。
 山刀が答えた。
「言ただろ、俺はずとお前の味方だて」

 手紙の続きは読まれることなく学校のゴミ箱に捨てられた。
                                      <了>
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