てきすとぽい
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第68回 てきすとぽい杯
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幻想教室
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2022.04.16 23:37
字数 : 1112
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幻想教室
犬子蓮木
卒業。
それぞれの道に進んでいく。
いつかまた集まることがあるだろうか。でもき
っ
と、そのときもクラスの全員が揃
っ
たりはしない、そんな気がする。
誰かは亡くな
っ
ているかもしれないし、クラスが嫌いだ
っ
たから顔なんてみたくもないという人もいるかな。
偶然、集ま
っ
た私たちは、人生の長さを考えれば、ほんの一瞬だ
っ
たような時間を過ごし、散り散りにな
っ
て離れていく。
桜は毎年咲くけれど、このクラスに来年はない。
声をあげている女の子がいる。
今日は、注目を集めたりはしない。
みんな泣いていたりするからだ。
子供だ
っ
たような顔が、少しだけ大人になり、今日は着飾
っ
た姿で誇らしそうに、だけど涙を浮かべながら、楽しか
っ
た思い出を話している。別れを惜しんでいる。
永遠はなく、しかし繰り返しはあり、けれど同じではない。
教室から少しずつ人が減
っ
てい
っ
た。賑わいが校舎の外に移動していく。
校内から少しずつ人が減
っ
てい
っ
た。賑わいが学校の外に移動していく。
私は、人のいなくな
っ
た教室に戻
っ
てきた。黒板にはカラフルな絵や文字で、これまでの感謝や喜びが書かれていた。黒板消しを持ち消していく。
数日もすれば、この教室に次の生徒たちがあふれかえる。今日までの思い出の痕跡はなく、新しい思い出が作られていくのだろう。この教室はい
っ
たいこれまでのどれだけの生徒を送り出しのか。考えればわかりそうだけど、考えようとまでは思わなか
っ
た。
振り返り教卓に手をつく。
きれいに並べられた机に生徒はひとりもいない。
話し声もない。
笑顔も、涙も、ふてくされたような顔を、眠
っ
ている姿もない。
私は来年もこの学校で生徒に教えていく。
またそのうち、次の生徒が卒業するのを見送る。
これまで何度も繰り返してきた。
こられかも何度も繰り返していくだろう。
窓の外に咲く、桜を見た。
今年も綺麗だなと思う。
でも、去年の桜となにが違うのか、私にはわからない。
だから桜はおもしろくない。
繰り返しの人生。
生徒に同じ人間なんて当然、一人もいない。私は過去に受け持
っ
た生徒や今日、送り出した生徒を思い出す。みんなそれぞれ違
っ
ていて、トラブルもあ
っ
たけれど、おもしろか
っ
た。
教室の中を見て回り、忘れ物がないことを確認する。なにもない。楽しか
っ
た数々の痕跡はみんな綺麗に消えていた。
よし行こう。
私は教室を出て、ドアを閉める。
鍵をかけた。
教室の中には、まだ生徒たちが残
っ
ているような気がした。
楽しげに話していて、チ
ャ
イムがな
っ
ているけれど、席に戻らない。
私が入
っ
て、や
っ
と戻りだす。
そんな生徒たちは、もういない。
後ろ髪をひかれるような気持ちを自覚しつつ、私はゆ
っ
くりと廊下を歩いた。
頭の中のでにぎやかな教室を思い浮かべながら。 <了>
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