第68回 てきすとぽい杯
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ラストシーン
投稿時刻 : 2022.04.16 23:33
字数 : 516
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ラストシーン
ra-san(ラーさん)


 雪が散た。
 雪原に仰向けに倒れ込んだ彼女が粉雪を舞い上がらせる。

「きれいでし?」

 陽光にきらめく粉雪の下で僕を見上げて彼女は問う。

「映画のワンシーンみたい」

 僕の答えに笑う彼女が重ねて問う。

「どんな映画のシーン? 甘い恋愛映画? それともアクシン映画の雪原での戦闘シーン? 雪山遭難ドキメント映画もあるかも。あとは――

 含み笑いの彼女の目が、僕の目を深く潜り込むように覗いてくる。

――サスペンス映画の殺人シーンとか?」
「そうだね」

 僕の手にある冷えたシトガン。その銃口がゴリと彼女の頭に触れる感触を伝えてくる。

「きれいのシーンにしてね」

 彼女への返事は銃口から発せられる。
 雪が散た。
 赤い雪が散た。
 美しい赤が散た白い雪の原。
 僕はそれを写真に納め、世界へ向けて発信する。
 電子の海に散て赤い雪は永遠に漂うだろう。

――きれいだよ」

 これは難病宣告で自分の余命を知た彼女の望んだラストシーン。
 美しく散ることを望んだ彼女が、恋人の僕に頼んだラストシーン。
 だからこれは恋愛映画のラストシーンだ。
 だから僕も美しいラストシーンを向かえなければならないのだ。
 シトガンの銃口がゴリと僕の顎に触れる感触を伝えてくる。

「ラスト」

 僕が赤く散る。
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