第70回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
〔 作品1 〕» 2  5 
プルンプルン
投稿時刻 : 2022.08.13 20:21
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プルンプルン
なんじや・それ太郎


 彼女の家に遊びに行た時、「プチンプリン」が出された。出されたはいいが、皿はない。彼女はといえば容器の蓋を剥がし、そこにスプーンを差し込もうとする。
 「ちと待た!」
 僕は彼女を制する。それは「プチンプリン」の食べ方として正しくないような気がするのだ。
 「どうしたの?」
 「『プチンプリン』はねえ」と僕は説明を始める。「こうやて(容器をさかさまにして)、裏にあるこの突起を『プチン』て折るのさ。だから名づけて『プチンプリン』」
 「『プチン』てするとどうなるのよ」
 「まずは皿を持て来てよ」
 「もたいぶるわねえ」
 彼女は皿を持て来て、僕の目の前に置いた。
 「よく見ててよ」と言いながら、僕は容器の裏の突起を「プチン」して見せた。だが……。何も起こらない。
 「どうしたの?」
 「こんなはずじ……
 この突起を折ると、穴が空いて、そこから空気が入り、容器とプリンの間に隙間ができて、プリンが重力で落ちるはずなのである。それがうまくいかない。リンゴが木から落ちて来ない時のニトンのような表情で、僕はプチンプリンを眺めていたに違いない。
 「私がやてみるね」
 彼女はそう言て、自分のプチンプリンの突起を指で折た。「プチン」と効果音が文字で現れて来そうな見事な音である。そしてプリン本体は皿の上に落ち、黒いカラメルと一緒にプルンプルンと揺れている。
 「そうだ、それが正しい『プチンプリン』のプチンの仕方だ」
 「あなたのはどうなの?」
 「これは失敗だ」
 「正しくない『プチンプリン』のプチンなのね」
 「まあ、そういうことになる」
 「失敗したの?」
 「端的に言てそうだ」
 「ふーん」と彼女はつぶやいた。「『自由落下とプチンプリン』という歌が思い浮かんだんだけど、ちと即興で歌てみてもいい?」
 「今度にしてくれ」
 そもそも僕は万有引力にまで嫌われれているわけではないのだ。プチンプリンの突起を折たにもかかわらず、空気が入るはずの穴がうまく開かなかただけに過ぎない。
 「下手くそ」
 「うるさい!」
 僕はプチンプリンの容器の表側に口をつけて、ずるずるとプリンを啜た。そして勢い良く吸引すると一気にごくんと飲み込んだ。
 「バカみたい。プリンは飲み物じないのよ」
 「ああ、美味しかた」
 数時間後、彼女のブラジのホクのプチンに失敗した僕だが、そんなことにはかまわずプルンプルンのおぱいに口をつけた。
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