彼女の家に遊びに行った時、「プッチンプリン」が出された。出されたはいいが、皿はない。彼女はといえば容器の蓋を剥がし、そこにスプーンを差し込もうとする。
　「ちょっと待った！」
　僕は彼女を制する。それは「プッチンプリン」の食べ方として正しくないような気がするのだ。
　「どうしたの？」
　「『プッチンプリン』はねえ」と僕は説明を始める。「こうやって（容器をさかさまにして）、裏にあるこの突起を『プッチン』って折るのさ。だから名づけて『プッチンプリン』」
　「『プッチン』ってするとどうなるのよ」
　「まずは皿を持って来てよ」
　「もったいぶるわねえ」
　彼女は皿を持って来て、僕の目の前に置いた。
　「よく見ててよ」と言いながら、僕は容器の裏の突起を「プッチン」して見せた。だが……。何も起こらない。
　「どうしたの？」
　「こんなはずじゃあ……」
　この突起を折ると、穴が空いて、そこから空気が入り、容器とプリンの間に隙間ができて、プリンが重力で落ちるはずなのである。それがうまくいかない。リンゴが木から落ちて来ない時のニュートンのような表情で、僕はプッチンプリンを眺めていたに違いない。
　「私がやってみるね」
　彼女はそう言って、自分のプッチンプリンの突起を指で折った。「プッチン」と効果音が文字で現れて来そうな見事な音である。そしてプリン本体は皿の上に落ち、黒いカラメルと一緒にプルンプルンと揺れている。
　「そうだ、それが正しい『プッチンプリン』のプッチンの仕方だ」
　「あなたのはどうなの？」
　「これは失敗だ」
　「正しくない『プッチンプリン』のプッチンなのね」
　「まあ、そういうことになる」
　「失敗したの？」
　「端的に言ってそうだ」
　「ふーん」と彼女はつぶやいた。「『自由落下とプッチンプリン』という歌が思い浮かんだんだけど、ちょっと即興で歌ってみてもいい？」
　「今度にしてくれ」
　そもそも僕は万有引力にまで嫌われれているわけではないのだ。プッチンプリンの突起を折ったにもかかわらず、空気が入るはずの穴がうまく開かなかっただけに過ぎない。
　「下手くそ」
　「うるさい！」
　僕はプッチンプリンの容器の表側に口をつけて、ずるずるとプリンを啜った。そして勢い良く吸引すると一気にごくんと飲み込んだ。
　「バカみたい。プリンは飲み物じゃないのよ」
　「ああ、美味しかった」
　数時間後、彼女のブラジャーのホックのプッチンに失敗した僕だが、そんなことにはかまわずプルンプルンのおっぱいに口をつけた。

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