むっちんプリン
化粧水が欲しいとか急に言いだすからさ、仕方なくドンキに来たよ。夜中の2時だ
っていうのに、若い小僧らがフロアに溢れていやがる。2月なのに学生はもう春休みか? 仲間同士で通路に固まるからものすごく邪魔なんだよ。子連れの若夫婦が歩いているのも謎。仕事の都合なのかもしれないけどさ、子供は寝かしてやってくれよ。関係ないのに将来が心配になるよ。化粧品とかって、確かレジの向かい辺りに置いてなかったか? なんで階段へ向かうのさ。
「モバイルバッテリー、ちょっと見たいかも」
ミー子のお尻が振り子みたいに左右へ振れる。なんだか口角が上がった笑顔に似てて、階段の下からお尻を眺める男たちを誘っているように見えるから、おれは一段抜かしで駆け上がり、振り向きざまにミー子の頬を思い切り叩いた。
「てめえ、ふざけんなよ」
ツケマツゲをパチクリしながら、潮を吹くみたいに涙を飛ばしている。こんなところで泣くんじゃねえよ。おれに恥をかかせるな。
家電売り場はおれをイライラさせる。音が光が、忙しなくて落ちつけない。
『超~特急~ム~チ~ハ~ダ~』(https://soundcloud.com/user-225645820-448032923/qmtvc1hmm2ra?si=48173cb60be64a99b4012a1f8bb44b80&utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing)
誰かがCDラジカセのボタンを押しやがった。電子音の反復が鬱陶しい。イライラがムカムカに変わる。
『超~特急~ム~チ~ハ~ダ~』
オイルならバイオイルを買えよ。クリームならチェリーブロッサムトーンアップクリームだ。
『ムッチンプリン♪ ムッチンプリン♪』
ミー子、おめえは痩せすぎなんだよ。もっとメシを食え。振れないくらい尻をデカくしろ。
『ムッチンプリン♪ ムッチンプリン♪』
透明感がある「モチムチ肌」を目指せ。そんでいままで通りおれのために稼いでこい。
『ムッチンプリン♪ ムッチンプリン♪』
『ムッチンプリン♪ ムッチンプリン♪』
客の相手なんかするな。おれの視界の中だけにいろ。店長に色目を使うな。おれの田舎の亘理町にはドンキなんかないんだよ。もう、田舎へ帰ろうよ。