冷やかし
玉菊灯籠が、吉原の大通りである仲ノ町を照らしている。
幇間の銀八を共に今宵もぶらぶらと廓を冷やかしながら歩いていた惣太郎は、ふと足を止めて格子の中を透かし見た。立膝を突いて気だるげに紫煙を燻らせている妓に見覚えがある気がしたのだ。
仲の町から外れた半籬の中見世なら、一見でも上がることが出来る。
惣太郎が見ている妓に気が付いて、銀八が爪先歩きで近寄り腰を屈める。
「茄子紺の内掛けの美人でやすね?」
返事を待たずに首を捻じ曲げ、遊女に目で合図を送る。
とうに気がついていたらしい妓は緩やかに立ち上がり、格子越しに煙管の口を差し出す。古めかしい立兵庫が似合う、どこか寂しげな顔立ちだ。二、三筋ほつれた後れ毛が細い首に張り付いている。
誘いに応じて、差し出された煙管を受け取れば、交渉成立というわけだ。
が、煙管に添えられた細い指の先が、ささくれて荒れていることに気付き、途端に気を削がれた。
「旦那、どうしやした?」
怪訝そうに見上げる銀八に、
「台所事情を見ちま
った気がするぜ」
とだけ言って、惣太郎はついと歩き出した。
近寄ってきた牛太郎に銀八が詫びを入れている声が聞こえたが、振り返らずに大門へと向かう。
台所事情が苦しいのはこっちの方だがと、自嘲の笑みを漏らしながら。