てきすと怪
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クッキー
投稿時刻 : 2013.09.15 23:59
字数 : 855
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クッキー
小伏史央


 風雨のふきあれる夜。わたしはやとのことで帰宅し、立ち上げたままのパソコンを触りました。SNSを開いてみると、参加しようと思ていた小説企画の締め切りまで、もう時間がないことに気付きました。よし、書こう。そう思て、愛用しているテキストエデタを開こうとしたのですが……、そう、そのときわたしは、見てしまたのです。

 あ、クキーだ。

 画面上をかまえるクキーは、存在感があて、同時にどこか儚げで、でも意味がわからなくて。ただ、クキーだ、という曖昧な確信だけが、わたしに注意をひきつけました。わたしは吸い込まれるように、カーソルをクキーに被せました。そして、クリク。
 クキーが、ふたつ。
 もう一度クリクすると、クキーが、みつ。よつ。いつつ。
 そのときやめておけばよかたのです。けれど、既に遅かたのかもしれません。わたしは、見てしまたのですから。
 クキーを。
 *
 増えて増えて増えて。
 わたしはクキーをつくるのが生きがいです。クキーのために生きています。増えて、増えて、増えて。
 クキーは増えすぎて、画面のなかには収まらなくなりました。わたしの部屋をうめつくすクキーが、誕生し、誕生し。蓄積されてゆく誕生の神秘。その神秘に立ちあうためにわたしはわたしはクキーをつくりますつくているのですわたしはつくているのです。それが生命の続く目的であり人類の栄誉であり、そしてわたしの幸せであるのです。
 わたしはいつまでもクキーをつくります。
 わたしはクキーをつくります。
 わたしはクキーをつくります。
 わ たしが キ ー を つく   り     ま             す。

 いえ、でもたまに、わたしはふと我に返ります。
 そのとき抱く恐怖は、たいへん大きなものです。
 ああ、なぜわたしはクキーではないのだろう。あの大群のなかに、なぜわたしはいないのだろう。その恐怖が、わたしをどくどくと締め付け、わたしはまたクキーをつくるのです。


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