第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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乾いた海と光る鱗
投稿時刻 : 2013.08.18 10:12
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乾いた海と光る鱗
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 それは、日の光を受けてきらきらと輝いていた。あまりに小さかたから、肉眼でその存在を捉えられたのは僕だけだたと思う。自警団の目を盗んで駆け寄り、手にとた。平べたい、いびつな丸型の無機物だた。僕はそれを握り締めて、物知りなお兄さんの下へ向かた。
 物知りなお兄さんは、コロニーから離れた洞穴にひそり住んでいる。物知りなお兄さんは、物知りだから物知りなお兄さんと僕が呼んでいる。お兄さんなのかどうかは実はよくわからない。もしかしたらお兄さんの生まれ故郷では男とか女とかいう区別をしないのかもしれない。お兄さんは物知りな上に異形だからこの星に流されてきたらしい。
 僕はこの流刑星で生まれ育た。流人5世てやつだ。
「お兄さん、これ見て!」
 拾てきたお宝をお兄さんに見せると、お兄さんは珍しく驚いたような顔をした。
「この前ロケトが墜落した場所でこそり拾てきたんだ」
「君、私が自警団に監視されているのは知てるだろう。どうして持てきたりしたんだい」
「僕が拾たんだから、誰にも渡さないよ。これが何か教えてほしかたんだ」
 お兄さんはしばらくそれをじと見つめた後、教えてくれた。
「これは多分、墜落したロケトに実験用に積まれていた魚の鱗の一部だよ。名前は――君の使う言語では表現しづらいな」
「この星に海がないから死んじたの」
「いや、海の魚じないんだ。それにどのみち死んでいたよ」
 その魚は太陽系第3惑星の知的生命体が観賞用に造り出した魚で、赤かたり、黒かたり、たまには白かたりして、ひれや尻尾が大きく、透き通てひらひらしているのがとても美しいらしい。
「お兄さんも見たことあるの?」
「大昔に資料でね。生で見たことはないよ。魚の鱗を手に取るのも初めてだ」
「これは黒だたのかな?」
「いや、焼けてしまたら元の色はわからない。私が昔見たのは赤だたな」
 僕はそれを聞いて洞穴を飛び出した。この星の大地は赤茶けている。理由は知らない。開拓されたコロニー以外はどこも赤い砂で覆われている。僕は拾た魚の鱗に赤い砂を目一杯かぶせた。きらきら輝いていた鱗は砂の海に沈んでいた。
「お前、こんな遠いところで、色まで失て、可愛そうだたね。寂しいね」
 僕は人差し指で砂の上に海の絵を書いた。お兄さんが教えてくれた情報を元に想像して。それから、僕が決して行くことのできない他の星の様々な生命に思いを巡らせた。
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