第9回 てきすとぽい杯
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フィクションメーカー
投稿時刻 : 2013.09.21 23:19
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犬子蓮木


 わたしのお父さんはさぎしです。
 ほんとうはおしごとしていないのに、人をだますためにべんごしになたりせいじかになたり、しやくしの人になたりします。
 お父さんは「おれのしごとどうぐはスーツだけさ」とよく言います。
 とても高いものらしいです。わたしに服なんかとは何十倍もちがうんだぞて行ていました。人をだまして買たお金で高いスーツを買て、それを着て、また別の人をだましにいきます。
 お父さんはだまされるほうがわるいんだとよく言います。
 わたしはそうなのかはわかりません。だまされる人がかわいそうじないかなとか思うこともあります。
 でも、わたしが学校にかよて、ミナちんや高木さんと遊んだり、お勉強をすることができるのはお父さんのお金のおかげなので、もんくを言たりはしません。
 わたしはわるいお金だとわかていても、ごはんも食べたいし、おもちで遊びたいです。この前のたんじうびに、お父さんがプレゼントを買てくれたときも、わるいおかねで買たんだてわかりましたがうれしかたです。

 なに書いてるの!
 少女は思う。こんなこと書いちいけないてわかてるのに。
 机に座ていた少女は作文を書く手をとめた。学校でもらた原稿用紙を、そこまで書いていたものをまるめてゴミ箱に投げる。まるまた原稿用紙はゴミ箱にあたることもなく外れて床に転がた。
 少女の父が詐欺師だなんていうのは当然、周りには秘密だた。バレたら少女の父親は捕まてしまう。だから内緒にしなければいけないと少女はじぶんの小さな身体の中にぐと秘密をためこんでいつも生きていた。
 お母さんが出て行かなければよかたのに。
 少女の母親は、別の男と愛し合て、二年前に家を出ていた。父親に対して、「お金が稼げそうだから結婚したのに、リストラとかありえない」と冷たい言葉を残して。
 そのとき、父親は騙されたと感じた。
 だから、今度は人を騙してやるのだと父親は思たようだ。
 決心は、人を変えることがある。大きな悲しみがあればなおのこと。そして、少女の父親は働いていたとき以上のお金を、より少ない時間で得る方法を身につけたのだ。
 きと才能もあたのだろう。
 きと壊れていたのだろう。
 少女の気持ちに気付かないフリをして父親は人を騙すということを続けていた。

「なんの宿題だ?」勉強部屋を見に来た父が少女に声をかける。
「作文。遠足にいたときの」
 少女は嘘をついた。本当は父親参観日に読む、父親についての作文だたのに。
 もちろん参観日についても言ていなかた。父親はそういたことにまともに興味を持とうとはしないし、もし聞かれても少女は嘘をつく。
 少女は自らの嘘の上手さを自覚していた。
 父というお手本が目の前にいて、母という父を騙していた存在も知ていて、その両者の血のつながりを自覚している少女は、自分もそんな人間なんだと認めていた。もしかしたら、才能の遺伝などなく、ただ人よりちとだけ会話が上手なだけの女の子でいられたかもしれないのに、認めねばならないような環境により、ほんとうにあるのかもわからない嘘の才能があるのだ、と少女は思い込んでしまた。思い込むことが少女の成長につながた。嘘をつくという能力の。
 少女は作文を最初から書き直す。
 どんな職業がいいかな。ほんとうのことを書かなくていいなら、作文なんて簡単に書ける。少女はそう思てくすくすと笑た。

 わたしのお父さんはトラクのうんてんしさんです。
 おしごとがあるときは何日もいなくなります。たいへんだなと思いますが、おしごとがないと何日も
と家にいてじまだなあとよく思います。できればずとおしごとで外にいてほしいと思ていました。だけどこのあいだこんなことがありました。
 わたしひとりがおるすばんをしていた夜にまどのガラスががたがたしたのです。とてもこわくなておふとんのなかでふるえていて、それでもこわくてお父さんにでんわをしました。
 そうしたらすぐにかえてきてくれたのです。
 わたしはお父さんのかおをみて泣いてしまいました。すぐにきてくれたのがうれしかたのです。そしてあそこのガラスがゆれてこわかたと話したら、お父さんが言いました。
「あ、それおれだわ」て。
 お父さんは家のかぎをなくしたらしくわたしの部屋の窓をゆらしていたらしいです。
 やぱりお父さんは家にちかづかないでほしいと思いました。
 でも、わたしはそんなお父さんがだいすきです。

 少女は簡単に作文を書ききた。嘘を並べて。父親は詐欺師で、少女は嘘つきで、嘘ならなんだてできるんだ、と思ていた。ああ、嘘で書くのてなんて楽なんだろう、と思ていた。
 だけど少女は気付いていない。
 いくつも職業があるなかで選んだものがトラクの運転手であることを。
 サラリーマンはイヤだた。
 弁護士も役所の人も政治家だなんてイヤだた。
 スーツを着る可能性のある職業なんて書きたくないと無意識に選んでいた。
 空は暗く、未来はわからず、過去は楽しかた。明日は笑ていて、明後日も笑ていて、きと来年だて笑ているだろう。だけど、それが本心からかはわからない。
 少女は生きていく。
 壊れそうな心を守るためと。
 嘘ついて。
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