てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第9回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
〔
2
〕
«
〔 作品3 〕
»
〔
4
〕
〔
5
〕
…
〔
12
〕
男はつまらないよ
(
松浦(入滅)
)
投稿時刻 : 2013.09.21 23:26
字数 : 1337
1
2
3
4
5
投票しない
感想:3
ログインして投票
男はつまらないよ
松浦(入滅)
真
っ
黒な父さん。華やかな母さん。
日常で、親戚の結婚式で、おじいち
ゃ
んのお葬式で。
どんな服を着ても、必ず父は黒く、母は様々な色を使いこなしているように見えた。
男はつまらないな
――
。
漠然と、そう思
っ
ていた。
私服だ
っ
た小学校ですら、華やかさという意味でもヴ
ァ
リエー
シ
ョ
ンという意味でも、男の子の服はモノトー
ンだ。
中学の制服に至
っ
ては、もうほとんど差別とい
っ
てもいい。セー
ラー
服が紺を基調としつつも赤いタイや、白のラインが使われているのに、学生服は黒一色。墨汁をこぼしても、そのまま着られてしまうほど実用一辺倒だ。
高校はブレザー
の学校だ
っ
た。ようやく服らしい服が着られると喜んだが、男子の制服がワイシ
ャ
ツネクタイにブレザー
だけだ
っ
たのに比べ、女子の制服はリボンとタイが選べたりと、オプシ
ョ
ンが充実していた。また差をつけられた気分だ
っ
た。
こうして長い時間をかけて、服飾に関する劣等感と執着心を植え付けられた結果、大学ではじけた。
つまりは、おし
ゃ
れは正義という感じで大学生活のスター
トを切
っ
たのである。
大学デビ
ュ
ー
というのとは違う。遊び倒すつもりなど毛頭なか
っ
た。実際、授業を休むこともなか
っ
たし、毎週のように飲み会に出るということもなか
っ
た。
ただ、ひたすらに着飾
っ
た。
春は黄色だ。
そう決めたら、毎日イエロー
を使
っ
た服で、一度たりとも同じ服を着ることなくゴー
ルデンウ
ィ
ー
クを迎え、連休明けにはブルー
で臨んだ。もうこれ以上、青で決めるのは難しいという限界ぎりぎりまで、青い服を選び続けて前期を終えた。
母さんは
「オネエに目覚めないでね」
といい、父さんは
「おし
ゃ
れだな
ぁ
」
とだけい
っ
ていた。
後期が始まる直前のこと。
秋は赤で決めようと思
っ
ていたし、すでに数着は買
っ
ていた。夏休みに集中的にバイトをしたので、資金も潤沢にあ
っ
た。
着慣れぬ服は、格好が悪い。
そんな理由もあり、近所の図書館に買
っ
たばかりの服を着て出かけた。
「ねえ
……
」
子どものささやく声が聞こえた。
ふりかえると、小学生くらいの女の子ふたりがこちらを見ていた。
怪しい者を見る目。社会から浮き出た者をいぶかしがる目だ
っ
た。
「あ、戦隊マンだ!」
別の方向から、男の子たちの声がして驚く。
戦隊マン、だと?
「俺知
っ
てるぞ、あの人イエロー
とブルー
とひとりでや
っ
てたんだ」
なるほど
――
。
笑いながら、図書館から駆け出していく子どもたちを見送り、俺はため息をついた。
その日を境に、服飾への興味は急速に失われてい
っ
た。
何を着ても、お笑いにしか見えなくな
っ
た。
春先、あれだけこだわ
っ
ていた黄色は、どの服を手にと
っ
てもダンデ
ィ
ー
しか連想できなか
っ
た。青い服は、三人組のパフ
ォ
ー
マー
しか思い浮かばない。
おし
ゃ
れでもなんでもなく、ただ目立つための記号でしかない。
自動車のセー
ルスマンにな
っ
た今は、無難なスー
ツしか着ない。
モノクロだ
っ
た父さんと同じだ。
そして、デ
ィ
ー
ラー
の外を歩く派手な男をみるたびに思う。
若いな、と。
自分が枯れたとは思わない。ただひとつ気づいたことがある。
おし
ゃ
れは一人でできるものではなく、そういう多様性を認める社会でなければ痛いだけなのだということ。
そういう現実を受け入れて、黙々と同じスー
ツを着続けた父さんはすごいな、と今さらながらに思うだ。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:3
ログインして投票