てきすとぽい
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食欲の秋!くいしんぼう小説大賞
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近親憎悪
(
伝説の企画屋しゃん
)
投稿時刻 : 2013.10.18 22:37
字数 : 1530
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近親憎悪
伝説の企画屋しゃん
憂鬱をはらんだ雨が降
っ
ていた。
ジ
ェ
イはコンビニの軒下から通りの向かいにある窓ガラスを見詰め、両腕を組んでいた。
苛立
っ
ていたのは、行きかう傘の群れが目障りだ
っ
たせいではない。腹が減
っ
ていたのだ。
少ないながらも、金はある。たとえば、今すぐコンビニに入り、パンを買うこともジ
ェ
イにはできる。路銀がなければ、旅は続けられない。ただ、ジ
ェ
イの旅には縛りがあ
っ
た。人とは何であるのか。それを見極めなければならないのだ。
その鉄則に従
っ
て、ジ
ェ
イは数多の国をめぐ
っ
てきた。けれども、この国は今までの国とちがい、一筋縄ではいきそうもない。通りの向かいのガラスの奥には、一台の機械が門番のように据えられている。牛丼という食べ物は、この国でも
っ
とも安価でポピ
ュ
ラー
であるという。実際、空港を出てからこ
っ
ち、ジ
ェ
イは数え切れぬほどの牛丼屋の看板を見掛けていた。
生命活動の根幹には、当然のことながら摂食行為がある。食べなければ、生き物は死ぬ。しかし、文明の礎を築きながらも、無償で食べ物が得られることのない事実が不思議でならない。果たして物質的、精神的な意味でも文明とは何なのか。も
っ
とも重要な行動に条件を設ける人間とは、何を目指しているのだろうか。ジ
ェ
イには、ひどく理不尽なことに思えてしまうのだ。
星が変われば習慣も変わるというが、ここまでドライな知的生命体と会うのははじめてだ
っ
た。とりわけ、この国には戸惑うことが多い。なにしろ、食べる前にチケ
ッ
トを買い求める店がある。欧州やアジア、アフリカなど世界を一通り回
っ
てきたジ
ェ
イだが、券売機がここまで幅を利かせていた国はどこにもない。
この星に長期間滞在するために慣らした身体が、急激に空腹を訴えていた。
券売機があ
っ
ては、目的が遂行できない。も
っ
とも庶民的な食事をし、金を払わずに店を後にする。それがジ
ェ
イが自らに課した命題だ
っ
た。食べ物に料金を設定するなど、知的生命体としての常識に反していることなのだ。それが理解できないようなら滅ぼされても文句は言えない。食べ物に対価を求めるなどという発想は、あたかも命を質にと
っ
て社会参加させているようなものだ
っ
た。
アジアやアフリカの屋台、欧州の大衆食堂。それらの店で、ジ
ェ
イはいわゆる食い逃げを働いていた。この星の料理はレパー
トリー
が無限にあり、どれもが非常によく研究されている。文明の程度は決して低くない。それだけに、心の底から残念だ
っ
た。母星に帰り、この星のあらましを語れば、全員が全員、ジ
ェ
イの話を嘘だと疑うにちがいない。
だから、ジ
ェ
イはこの星も他と同じだという既成事実を作りたか
っ
た。しかし、その目論見をあの機械が邪魔立てしている。腹を満たし、店から出たら全力で逃げ、人気のない場所で亜空間へ潜り込む。券売機には、そのセオリー
が通じない。なにしろ、テー
ブルに着く前に料金を払わなければならないのだ。
この星のなかでは、治安の安定している国のはずだ
っ
た。そう思えば思うほど、券売機への憎しみが増してくる。
こんなとき、ジ
ェ
イの故郷ではどうするか?
怒りを相殺する方法は、この広大な宇宙でも一つしかない。
食券があるなんて、し
ょ
っ
けんぐー
。
無数の雨粒を見上げ、ジ
ェ
イは叫んだ。
何年も前から定住しているヒ・ヤトイ・クー
ンが、教えてくれたのだ。腹が立
っ
たときは言葉遊びに限る、と。
けれども、ヒ・ヤトイ・クー
ンは間違
っ
ていた。ジ
ェ
イに必要なのは食べ物だ
っ
たのだ。
空腹が限界に達し、ジ
ェ
イの身体は異変をきたしていた。
肉体変異が解け、裂けた皮膚の中からモノリスが姿を現した。
東京都足立区の上空には、黒く巨大な板状の物体が浮かんでいた。
そして、その物体の表面にはある文字が刻まれていたという。
昼定食320円、と。
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