てきすとぽい
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第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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印象が大事
(
志菜
)
投稿時刻 : 2013.10.18 23:42
字数 : 1106
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印象が大事
志菜
「コピ・ルアク、を知
っ
ているかね?」
白衣の男はそう、私に聞いた。私は少し考え、曖昧に首を振る。
「知りませんね。なんですか、それは」
「コー
ヒー
豆だよ。ジ
ャ
コウネコのフンから取れる貴重な物だ」
それを聞いて、私はタイミングよく口に運んでいたコー
ヒー
を吹き出しそうにな
っ
た。
「フン
っ
てフン? つまりクソのことですか?」
「そうだ、クソだ」
男は面白そうに笑
っ
た。しかし私はち
っ
とも面白くない。コー
ヒー
を飲む気も失せた。
「わけが分かりませんね。猫の糞から出てきたコー
ヒー
豆の何が貴重なんです」
「猫ではない。ジ
ャ
コウネコだ。ジ
ャ
コウといえばまたの名をムスクと言い、甘く魅惑的な香水の材料でもある。2つを結びつけているのは香りだ。つまりジ
ャ
コウネココー
ヒー
とネココー
ヒー
とは全く印象を異とする」
印象などはどうでもいい。話が核心に近づかずに、私はイライラと言
っ
た。
「で、その香水の材料から出てくるコー
ヒー
はジ
ャ
コウの甘い香りがするとでも?」
「そうではない。コー
ヒー
の実を食べたジ
ャ
コウネコの腸内で、消化されなか
っ
たコー
ヒー
の種子、つまりこれが一般的にコー
ヒー
豆と言われるものだが、発酵されて香りに風味を添えるというのだ」
最初に飲んだ奴が何を思
っ
て飲んだのかは分からないが、えてして珍味とはそういうものだろう。私は先を促した。
「で、私への仕事とはそのジ
ャ
コウネコを狩
っ
てこいとでもいうことですかな? でしたらお門違いですね。狩りは狩りでも私の専門は動物ではない」
「むろん、わか
っ
ている。君に依頼したいのは偽コピ・ルアクの検挙だ。高価なものだけに、紛い物が多く出回
っ
ている。それこそ、本物以上にな。その出処を突き止めてほしい。おおよその場所は特定できている。治安は決して良いとは言えず、そこで必要となるのが君の銃の腕ということだ」
白衣の男はそう言
っ
て、封筒から地図が描かれたメモと、数枚のフイルムを取り出し、私の前に並べた。
バラ
ッ
クのような建物の前に、上半身裸の男たちが集ま
っ
ている写真だ。東南の方だろうか。それらを手に取りながら皮肉な口調で私は言
っ
た。
「偽でも本物でも当人が知らずに美味しいと思
っ
てるんなら、それでいいんじ
ゃ
ないですか」
「そういう訳にはいかない」
男は苦笑しながら言
っ
た。私は立ち上がる。
「ま、仕事ですからありがたくお受けしますがね。詳細は事務所に帰
っ
てからまた連絡します」
そう言
っ
て、部屋を出る。くだらない仕事だが、得意先を怒らせるわけにもいかないだろう。
本物と偽物にどれほどの違いがあるのか。
私は本物なのか。殺し屋として生きている私の人生は本物なのだろうか。
――
当人がそれで良ければ、それでいいか。
私は考えるのをやめた。
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