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第11回 てきすとぽい杯〈お題合案〉
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齧る
茶屋
 投稿時刻 : 2013.11.16 23:09
 字数 : 905
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齧る
茶屋


 魔法の秘薬にリンゴを浸けよう、永遠なる眠りがしみこむように

 チリングは林檎を齧て死んだ。
 死因は青酸中毒。
 林檎に青酸を塗り、それを食べての自殺だといわれている。
 あるいはただ永い眠りにつくつもりだたのかもしれない。
 死は眠り。
 永きの安息。
 そう。
 白雪姫のように。
 だが彼には王子様もやてこなければ、小人たちもやてくることは無かた。

 死の間際、チリングが落とした林檎はニトンのもとへと落下した。
 頭にしたたかな衝撃を受けたニトンは重力を発見したとも、首を痛めたとも、気が狂たとも言われている。
 彼が歴史の中に名を刻んだ業績はこの引力の発見の他にも数多くあるし、必ずしも現代の物理学の基礎が、彼の手にした林檎の種から茂たものだけとは言い難い。けれども、彼の知と林檎は強く結び付けられて語られている。
 何故なら林檎は、知の象徴だから。
 
 蛇は林檎を人間に与える。
 例えば男と女で、例えばお初と徳兵衛。
 結ばれぬ恋も、せめて来世でと林檎を齧る。
 此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。
 閉幕。
 否。
 齧たのはアダムとイブ。
 彼らは禁断の果実を齧り、知を手に入れ、楽園を追放される。だが、彼らにはそれが本当に林檎であるかどうか疑う知能は無かたようである。
 
 また天界より火を奪い、人間に火を基とした「知」をもたらしたプロメテウス。
 彼はヘラクレスが求めた黄金の林檎を得るための知恵をやはり授けている。
 岩に張り付けられ肝臓を禿鷹についばまれるという悲惨な目に合ているが、知恵を授けたお礼にとヘラクレスに助けられている。
 林檎は知を助く。

 現代でいえばApple社。
 ロゴマークは齧られた(bite≒byte)林檎。もちろん齧たのはチリングではなくジブズ。ジブズの知はどれほどのものか、歴史がどのように評価するかはわからない。ただ、彼は林檎を齧た。
 
 禁断の実であたはずの知恵の実は今も人々に貪欲に食われ続けている。
 たとえ神に見放されようとも。
 たとえそれが堕落であたとしても。
 人は常に求め続ける。
 知を。
 そして、禁断を。

 やがて目覚めるだろう、白雪姫は王子の口づけを待ちながら今も眠り続けている。
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