てきすとぽい
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第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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いつかみた光
(
松浦(入滅)
)
投稿時刻 : 2013.12.14 23:15
字数 : 1120
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いつかみた光
松浦(入滅)
「そ
っ
ちの段ボー
ル、と
っ
てくれ」
大学時代から、惰性で住み続けていた部屋を明け渡す日が来た。
「ち
ょ
っ
と、また古い本とか出てこないでし
ょ
うね?」
手伝いに来てくれているトモダチ
――
彼女ではないし、妹のような身内的ななにか、とも違う。いわゆるトモダチだ
――
がうんざりした表情でいう。
今までの部屋も十分に狭か
っ
たが、今度借りる部屋はさらに狭い。
僕は今朝から、「断捨離! 断捨離!」と、うんざりするほど聞かされていた。
「たぶん出てこないよ。この箱は軽すぎる」
僕はハサミの片刃を使
っ
て、封をしていたテー
プを切る。
「なに? なに?」
さ
っ
きから、二言目には捨てろ捨てろと、呪文のように唱えていたトモダチも、僕の肩越しに箱の中を覗き込む。
「なに、これ?」
「写真だよ」
「これが?」
箱の中に入
っ
ていたのは、スライドにしたリバー
サルフ
ィ
ルムだ
っ
た。
デジカメ全盛の今とな
っ
ては、スライドなんてもちろん、フ
ィ
ルムですら「なんなの?」
っ
て言われそうだ。
「昔、カメラに凝
っ
てたから
……
。これは、燃やさないゴミだな」
僕は、コンビニで買
っ
たごみ袋に放り込もうとした。
「ち
ょ
っ
と待
っ
て! ね、これ映画みたいにみられるんでし
ょ
?」
「よく知
っ
てるね」
「なんか、古い映画で見たことあるから。くらい部屋で、シー
ツをスクリー
ンにして。家族で写真をみる
っ
てやつ」
「これ、なに?」
遮光カー
テンを引いて、壁紙をスクリー
ンにはじめた上映会。
数分と待たずに、トモダチは不満を口にした。
ま、そう言われるだろうなとは思
っ
ていたが、ま
っ
たくトモダチの反応は予想通りだ
っ
た。
「見ての通り、テ
ィ
ッ
シ
ュ
ペー
パー
だよ」
壁に映し出されるのは、ま
っ
すぐな光を浴びて陰影を作るテ
ィ
ッ
シ
ュ
ペー
パー
」
「ゲイジツ
っ
てやつ?」
トモダチは苦笑いだ。
「光を表現したか
っ
たんだ」
「どうせ光云々いうなら、雪景色でも撮ればよか
っ
たのに」
「無理無理。僕、インドア派だから」
僕は黙々とスライドを送る。
「これ、いつまで続けるの?」
これまた数分と待たずに、トモダチは音を上げた。
「いやなら、いつでもやめるよ」
「うー
ん。それもなんだか負けた気がする
……
」
「じ
ゃ
あ、最後までみようか?」
「それはそれで、時間がも
っ
たいない」
僕は次のスライドをセ
ッ
トした。
「あー
。もうわか
っ
たわよ! わたしの負けでいいから」
「そう?」
「早く、荷物の片付けや
っ
ち
ゃ
おうよ」
「オ
ッ
ケー
」
僕は何食わぬ顔で、スライドの束を不燃ゴミの袋に放り込んだ。
トモダチは知らない。
僕のテ
ィ
ッ
シ
ュ
ペー
パー
コレクシ
ョ
ンには、巨乳モデル撮影会に参加した時のスライドも混じ
っ
ていたことを。
トモダチは知らない。
僕がどれほど長く、トモダチからはじめてチ
ョ
コをもら
っ
た日の雪景色を引きず
っ
ていたかを。
/
/
おしまい
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