第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
 1  2  3 «〔 作品4 〕» 5  14 
幻雪
茶屋
投稿時刻 : 2013.12.14 23:23
字数 : 1121
5
投票しない
幻雪
茶屋


「あ、雪」
 彼女がそういたのは丁度空を見上げた時だた。
 曇り空が広がている。
 太陽は出ておらず、光は雲に遮られている。
 そして、雪は見えない。
 僕は黙たまま、歩を進めていく。
「ね、雪が降てきたよ」
 慌てて彼女が追いかけてくる。少し、怒ているかもしれない。
「雪なんてどうでもいいよ。面倒なだけだし」
 僕は雪が好きじなかた。あんなもの邪魔なだけだし、雪掻きは面倒だし。
「そんなことないよ。ロマンチクじん」
「最初はね」
 冷たく言い過ぎたかもしれないと思て振り返ると、彼女は笑ている。
「ごめんて言おうとしたでし
 バレバレだ。見透かされている。

 朝起きる。
 寝ぼけ眼をこすりながら、冷蔵庫から牛乳を取り出してリビングに行くと、彼女はもう起きていて窓の外を眺めていた。
「おはよう」
 そう声をかけると、彼女は振り向かないままに答える。
「雪、だいぶ積もたね。もう、別世界だよ」
「最悪」
 僕は窓の外も見ないで、うんざりしたように言う。
「またくー。風流の欠片もないでござるな
 おどけていた彼女がやと振り返て笑う。
 僕も笑う。
 とても素敵な笑顔だ。

 彼女は雪が好きで、とても好きで、雪が降た日はとてもごきげんだ。
 それと対照的に僕の気持ちは沈むのだけれど、彼女の笑顔が救いになる。
 僕は雪が嫌いだ。
 大嫌いだ。

 同じ速度で歩いているつもりでも、彼女は遅れてしまう。
「すごいね。雪道なのにそんなにスタスタ歩いて」
 僕は彼女が追い付いてくるのを待ちながら、答える。
「ああ、これでも雪国出身だからね」
「うん。それは心強いね」
 そう言て彼女は僕の手を握てくる。
 彼女の手は、とても冷たかた。
 手をつないで歩き始める。
 今度は彼女を置いていかないように。

「寒い」
「え?」
 思わず、聞き返してしまた。
「えて、寒くないの?こんな吹雪なのに」
 彼女はつらそうに目を凝らしながら僕を見つめてくる。
「あ、ああ、まあ、慣れてるから」
「すごいな。こんな吹雪、私には耐えられないよ」
 気をつけないと。

 彼女が歩く速度がますます遅くなる。
 だから僕もゆくりあるかないと。
 彼女を置いてはいけない。
 一人にしてはいけない。

「雪だ。雪だよ。ホワイトクリスマスだよ」
 イルミネーンに彩られた街で彼女はそう言てはしぐ。
 過ぎ去ていく通行人は空を見上げ、その後怪訝そうに彼女を顔を見る。
「ああ、ホワイトクリスマスだ」
「綺麗だね
「うん。綺麗だね」
「どうしたの?珍しいじん」
「まあ、クリスマスプレゼントてとこかな」
「なにそれー。キザー。きもー
 彼女は笑う。
 僕も笑う。
 僕らは空を見上げる。
 彼女は見る、雪を。
 彼女にしか見えない雪を。
 でも今日だけは僕も雪を見る。
 それがいつか幻覚でなくなることを願て。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない