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第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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スノウ、スノウ、スノウ
 投稿時刻 : 2013.12.14 23:32 最終更新 : 2013.12.14 23:46
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更新履歴
- 2013.12.14 23:46:30
- 2013.12.14 23:36:35
- 2013.12.14 23:32:41
スノウ、スノウ、スノウ
たこ(酢漬け)


 ある男が雪山を滑降していた。スキー板のワクスは塗りたてで、とても滑りやすく、男は満足がいていた。コーナーでエジを効かせ、鋭角に雪山を切り刻んでいく。
 男のパラレルターンはとてもしなやかにこなされていて、男がターンを決めるたびに巻き上がる雪の粉が太陽の光を浴びて、まぶしいほどに輝いていた。
 徐々にスピードを上げる。段差の急な地点を滑るときにはスキー板が雪面から浮き上がり体が浮くほどであた。
 ゴーグルとマスクをつけている男の顔は見えない。無名の男が黙々と雪山を滑り降りていく。
 晴れた日の雪山は稜線がくきりと浮かび上がていて、真青な空との境界のコントラストを強くしていた。
 そんな風景の中、男は雪山を下て行く。男は重心を前に傾け、さらにスピードを上げた。そしてまたさらに・・・。
 誰かがその瞬間を見ていたとしたら、あ、と声を出したかもしれない。それは一瞬の事であた。一瞬、男が気を緩めた瞬間に、すべてのバランスが崩れた。
 男は雪の積もた斜面に頭から突込み、転がり落ちていく。何回も、何回も回転しながら。速度はどのくらい出ていただろうか、体を強く打ち付けたかもしれない。男が転ぶ瞬間は体が宙に浮いていた。
 腕や足がおかしな方向に投げ出され、男の手から離れたストクが斜面に触れて、まるでねじまがたシフトのように四方八方へと飛び跳ねていた。
 幾回転かしたところで、ついにスキー板が脱落し、まだ転がり落ちていく男の体から離れ、置き去りにされていく。
 数十メートルくらいだろうか。正確な距離は分からない。しかしそれだけの距離を男は転がり落ちて行た。それだけの距離を転がり落ちて行たところで、男の体はようやく静止した。
 やはり衝撃が激しかたのだろうか。男の体はピクリとも動かない。スキー板は男の遥か遠く。ストクの紐が投げ出された男の両手に何とか引かかている。
 険しい雪山。とがた峰。真青な青空。粉雪が舞い上がり、ダイヤモンドダストのようになている。その中に、ぽつんと小さな黒い点。力を失た男の体。
 そんな悲しげな静止画。あたりには誰も人がいない。誰も助けに来ない。何物も動かない。
 空中に動く雲がなければ時間が止またと錯覚したかもしれない。一瞬の衝撃のあと、静寂があたりを包んだ。
 ここからは風の音も聞こえない。
 #
 赤子に乳をあげている母親の姿がある。先ほどまで赤子は泣いていて、さすがに大人でもうるさいと思てしまうほどであた。
 母親はそと服を脱ぎ、乳房を露出させる。そと赤子を抱きかかえ、赤子の口元へと乳房の先を近づける。
 赤子は小さな口を開き、母親の乳首を口に含む。そうすると、先ほどまで、うるさかた赤子の鳴き声が途端に止む。
 母親はゆくりを体を左右に揺らし、赤子を安心させる。赤子は嬉しそうに母乳を飲んでいる。
 数分間その光景が続いた。
 暖炉からぱちぱちと薪の燃える音がした。外は晴れた冬の日であた。
 窓からまだ解けていない雪が少しだけ見える。
 #
 「雪」と「光」は姉妹だた。それも双子の姉妹であた。
 まず最初に「雪」が生まれ、その数時間後に「光」が生まれた。二人は両親に大事に育てられた。赤ん坊のころからいつも二人は一緒だた。同じ母親から乳をもらい、二人で同じご飯を食べ、二人とも同じデザインの服を着た。
 年を重ねるにつれ、二人はさらに似ていくようになた。黒くますぐな髪。黒い瞳。透き通た肌。
 二人とも体が細く、どこか薄幸そうなところもそくりであた。
 ある日母親が言た。
「二人ともそくりね。お母さんも見分けがつかなくないそう」
 その日は二人とも黙ていた。
 そしてまたある日、「光」が言た。
「こんなに似ているのは嫌だ」
 「雪」は言た。
「でも仕方がないよ。双子なんだから」
 「光」は言た。
「なんで双子なの?」
 「雪」は言た。
「そんなこと・・分からないよ」
 なんだか「光」も「雪」も泣きそうになた。
 「光」はなんだか耐えられなくなて家から飛び出して行た。突然のことだたので「雪」は後を追うことができなかた。寒い冬の日の事だた。
 その日の晩、「雪」が一人で晩御飯を食べていると、母親が警察と電話をしていた。母親は少し取り乱した様子で、それでも冷静を保とうとして、「はい・・・はい・・・」と頷きながら、受話器に話しかけていた。
 「雪」もなんだかよく分からなくて、晩御飯もあまり喉を通らず、ただじとしていることしかできなかた。
 それからまた月日が流れた。
 二人はすかり大人になた。妹の「光」は来月結婚するようだ。「雪」は母親から電話でそう伝えられた。
 「雪」は受話器を置いた後、自分が暮らすマンシンのベランダに出た。その日もまた冬の日で、冷たい風が「雪」の頬をなぞた。
 眼下には車のヘドライトやテールランプが流れていく。「雪」は少し近眼なのかもしれない。その光の輪郭が少しぼやけて見えた。
 雪が降てきた。こんな都会にも雪が降るんだな、なんて「雪」は思た。掌で雪のひとひらを捕まえると、体温ですぐに溶けてしまた。
 「雪」は少しだけ、あの日すぐに「光」を追いかけなかたことを後悔していた。
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