てきすとぽい
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輝き! プロット頂戴大賞
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〔 作品5 〕
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〔
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〕
鱗茎のエリシオン
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2014.01.12 23:53
最終更新 : 2014.01.13 00:00
字数 : 7148
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2014/01/13 00:00:08
-
2014/01/12 23:57:48
-
2014/01/12 23:53:09
鱗茎のエリシオン
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
人工芝は、トビー
が思わず吐き出したレー
シ
ョ
ンをよく弾いた。鮮やかな黄緑色の葉の上に、赤色の水滴が滴ることなく留ま
っ
ている。唾液と混じり合
っ
て粘性を増したそれは、陽光を鋭く跳ね返した。
「不味いか」
面白そうにそう言うルー
ツに、トビー
は顔を上げた。トビー
と同じ10代にも、少し年上の20代にも、あるいは40代の、自分の親と言えるくらいの年代にも、どうにでも見える男だ。
「
……
口に合わない」
言葉を選ぼうとしたが、結局そうとしか言いようがなか
っ
た。かつては食べ物の味など味わうことも、好き嫌いをする余裕もない生活を送
っ
ていたトビー
でも、飲み込むにはあまりに耐えられない味だ
っ
た。
「そうだろうな、お前たちには合わないだろう」
ルー
ツが気分を害した様子はないようだ
っ
た。
「トマトという野菜の舌触りと味を再現したものだ。地球から出たばかりの頃は皆、故郷の食物を模したレー
シ
ョ
ンしか摂取していなか
っ
たからね。合成栄養剤しか知らんお前たちには信じられないだろうが」
「栄養を効率よく摂取できるように配合したものだから。そ
っ
ちの方が無駄がなくて良いだろ」
「ああ、そういえばお前は補給兵補だ
っ
たな」
言いながら、ルー
ツは自分のレー
シ
ョ
ンの容器に視線を落としながら、その表面をそ
っ
と撫でる。容器は透明で、中の赤がよく見えた。
「効率か
……
そうだな。ジ
ャ
ンパー
の舌はどうも、慣れ親しんだ食べ物の味を忘れられなくてね。非効率なことこの上ない」
「非効率なのは
――
」
ジ
ャ
ンパー
の存在そのものではないのか。
そう言い掛けて辛うじて飲み込んだが、その瞬間にトビー
の腹の中に生まれた気持ちを、直感で悟
っ
たのだろう。ルー
ツは自嘲的に、小さなため息のような、笑いのようなものを吐き出して、それから、黙
っ
て歩き出した。気まずさに、かける言葉もない。その背中を見つめながら、トビー
は拳を握りしめた。公園には人がまばらにいる。暇を潰している役人だ
っ
たり、休暇を取
っ
た親子だ
っ
たりする。中にはルー
ツの存在に気づいて、顔を輝かせて話しかけている者もいた。ルー
ツはトビー
の、大叔父であり、この世界の英雄だ
っ
た。
昼下がりの公園は心地よい気温だ
っ
た。トビー
はなんだか疲れを感じて、その場に寝そべる。背中を預けるのに最適な柔らかさをしている芝は、もちろん自然の植物ではない。そばに生えている木も、花も、何もかもが、人工的に作られたものだ。遠い遠い故郷にあ
っ
たであろうそれを、遠い遠い昔に捨ててきたトビー
たちの祖先が、模して作
っ
たものだ。
艦隊は100年以上前に地球を出た。人類はその内部にいれば、すべてが事足り、生活が出来た。世界はここで完結している。
人類は選別される。選ばれたもの同士だけが交配して子孫を成すことができた。そうや
っ
て徹底的に管理された継代が続いている。そこから逸脱した存在がジ
ャ
ンパー
と呼ばれる者だ。
ルー
ツは最高齢のジ
ャ
ンパー
だ。もはやこの艦内で、本物の地球を知
っ
ている存在は彼しかいない。コー
ルドスリー
プと覚醒を繰り返してきた。
ー
ー
何のために。
苦い気持ちが湧いてきそうになるのを止められなか
っ
た。ルー
ツが覚醒し、自分の家族とな
っ
てから10年が経
っ
た。時折こうや
っ
て何気ない言葉を交わすことがあるが、本当なら彼がわざわざ自分に声をかける必要性もないはずだ
っ
た。気を使
っ
てくれているのだろうか。気さくで、快活で、知的な男だ。自分の胸の内はすべて見透かされただろう。トビー
とて、人の良さそうな大叔父に、何の裏もなく好感を抱けたならどれだけ気が楽だろう、と思う。ため息を月ながら、空を眺めた。透き通るような青い空も、真
っ
白な雲も、すべてそう見えるように作られたものだ。それを、どこかの親子がとばした紙飛行機が横切
っ
ていく。
***
艦隊の新しい進路座標が決定されたという情報が発信された時、トビー
はまだ自宅のベ
ッ
ドで横にな
っ
たままだ
っ
た。体がだるい。補給兵補に任官されてから、生活は毎日毎日単調なことの繰り返しで、緊張感がないことが、逆に心身をむしばんでいるような気がした。
艦隊の内外の動向に関しては、すべてブリ
ッ
ジが決定する。艦隊の中枢であり、政府組織のようなものだ。重大な決定がなされると、個人が持
っ
ている端末に一斉に情報として発信された。トビー
の端末が、音声でその情報の受信を告げたが、トビー
は詳細を知るために端末を立ち上げることはしなか
っ
た。艦隊は長い間、最初に予定していた航路を反れて、宇宙空間を漂流している。新しい座標が決ま
っ
たところで、自分が生きている間に、地球には帰れないだろう。
トビー
が重い体をようやくベ
ッ
ドから起こして、サイドテー
ブルに置いていた端末を手に取
っ
たのは、それからしばらくして、サクラからのメー
ルを受信したときだ
っ
た。読み上げろ、と端末に命じかけて、やはりやめた。読み上げ機能を機動すれば、サクラ本人の声にきわめて似せて合成した音声で、受信したメー
ルが再生される。今はそれを聞きたい気分ではなか
っ
た。
スラムで共に育
っ
た幼なじみのメー
ルは相変わらず、シンプルすぎて女性らしさの感じられない文面だ
っ
た。彼女は昔からそうだ
っ
た。甘えることも媚びることもしない。そんなことをする必要もなか
っ
たからだろうが。かつては、そんなことをしなくても、トビー
の兄が二人を守
っ
てくれた。3人で身を寄せ合
っ
て、今のことだけを心配していれば、1日1日が過ぎてい
っ
た。何もないけれど、二人がいた。世界はそれだけだ
っ
た。
昼飯時というには少し遅か
っ
た。スラムの近くの労働者階級用の食堂はそれほど混んではいない。サクラと二人で腰掛けた席の両隣には誰もいなか
っ
た。
「変わ
っ
た色をしてるわね」
話のネタに、と持
っ
てきた、例のトマトのレー
シ
ョ
ンを手渡すと、サクラは思
っ
た以上に興味を示した。
「これが地球の食べ物なの?」
「地球の食べ物を模したレー
シ
ョ
ンだよ。そういう色の野菜が地面から生えてるんだと」
「こんなものが地面から? 面白いわね」
しげしげとその色を見つめながら、サクラはキ
ャ
ッ
プを開いた。
「や
っ
ぱり、大叔父さんは英雄なのね。艦内の誰も知らないものだ
っ
て何でも知
っ
てる」
心底感心したように言うサクラに、トビー
は何も言えず黙り込んだ。それはお前の本心なのか? と聞きたい気分にな
っ
たが、聞けるわけがなか
っ
た。お前は、あの人を嫌
っ
た
っ
て、憎んだ
っ
て、いいはずだ。そして、俺のことも。
キ
ャ
ッ
プをひねるサクラの手は汚れて傷ついている。服だ
っ
て、何日も変えていないだろう。髪はどう見ても手入れされてはいなか
っ
た。10年前、ルー
ツが目覚めた日、突然トビー
と兄はブリ
ッ
ジに呼び出された。サクラをスラムに残して。
「迎えにいくから」
まだ10にも満たなか
っ
たトビー
は子供らしい一途で純粋な気持ちでそう言
っ
た。握
っ
た手は冷たか
っ
た。バカみたいに本気だ
っ
たし、一世一代の約束のつもりだ
っ
た。
結果、10年経
っ
ても、トビー
は一人で、衣食住を、艦内でのそれなりの地位を保障されている。
「
……
なんだか」
レー
シ
ョ
ンを一口飲みこむと、サクラは小さく笑
っ
た。寂しげな笑みは、同じ歳のはずなのに、彼女をトビー
よりずいぶんと大人びて見せる。
「懐かしい味がする、気がする」
冗談を言
っ
ているようには見えなか
っ
たので、トビー
はやや戸惑
っ
てその顔を黙
っ
て見つめた。
「おかしいわよね、地球の食べ物なんて食べたことないのに
……
」
彼女の言葉を遮るように、突然トビー
の端末が、ブリ
ッ
ジからの着信を知らせた。けたたましい発信音に、それに慣れていないサクラが驚いて肩を震わせたのがわか
っ
た。ブリ
ッ
ジからの着信音はマナー
モー
ドにしても必ず音を出す。持ち主が決して聞き逃さないように大きな音を立てる。トビー
はある程度慣れたが、サクラには馴染みのないものだろう。おそらくは、10年前のあの日のトビー
の兄の端末に着信があ
っ
たとき以来だろう。トビー
は内心舌打ちをして、素早く内容を確認した。緊急の呼び出しだ
っ
た。拒否権など、あるはずがない。
「ごめん、呼び出しだ、行かなき
ゃ
」
「うん、忙しいのに呼び出してごめんね」
立ち上が
っ
たトビー
に、サクラは軽く手を振りながら微笑んだ。何かを言うべきであるような気がして、しかし何も思い浮かばなか
っ
た。
立ち去るトビー
の背中を見送り、サクラはため息をつく。その瞬間、サクラの端末もまた、ブリ
ッ
ジからの着信を知らせた。