短歌小説コンペ
 1  6  7 «〔 作品8 〕» 9  14 
忘れられた願い
投稿時刻 : 2014.02.12 00:43
字数 : 806
5
投票しない
目次
1. ・ややグロ
2. 妹は、ある日姉を失った。いつかは戻ると信じて待った。
全ページ一括表示
2 / 2
 妹は、ある日姉を失た。いつかは戻ると信じて待た。

 美しい、彼女の自慢の姉だた。名をアウロラというのであた。
 アウロラはある朝竜になていた。訳知り顔の占者は言た、
「この者の中身は消えた、諦めよ」
 ――しかし身体は残ているぞ!
「器には竜の臓器が詰められた」
 ――信じるものか!
 鼻で笑た。
 だがそれは、ほんとうのことだたのだ。
 優しい姉は消えてしまた。
 けだものになてしまた。妹の顔も分からぬけだものに。

 けだものに妹は名をつけ直す。けだものらしい、ふさわしい名に。
 アウロラは、姉の名前だ。けだものに姉の名前は使わせられぬ。
 ――おまえなど、排泄物の名で足りる。
 アウロラは消え、反吐が生まれた。

 その日から、妹は反吐を飼てきた。人ならぬ反吐は人を食した。
 妹は、ひたすら耐えた。
 おぞましい。人肉を食み、臓腑を啜る。
 だがいつか、姉に戻てくれるだろう。望みを口に出さぬ日はない。
 血にまみれ、竜を従え、さ迷た。聞こえる噂に耳をふさいで。

 ――人喰いの、おんなと竜が、居るという。
 ――殺せさあ殺せ、殺してしまえ!

 漂泊の旅は永久には続かない。袋小路が死に場所だた。
 あけなく、怒り狂た斧の刃が、逃げる妹の脳天を割る。
 だが反吐は、腐ても竜。血を流す妹を踏み、追手を噛んだ。
 ぐしぐしぐし
 ――あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。
 ――あ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ
 血の雨が降る。頬をひと舐め。

 その時だ。
 アウロラは路地に立ていた。
 足元に人、誰かと誰か。ぐちぐちで、踏みつけられた、人の跡。顔も分からぬ死体が二つ。
 アウロラは悲鳴を上げて気絶した。
 目覚めた彼女は、優しくされた。
 可哀想、人喰いたちにさらわれて。
 そうだたの? と、彼女は言た。

 妹が願いを込めた名の通り。分かていたから反吐に喰わせた。
 人肉で、竜の臓物を吐きだした。
 入れ替わるまでちうど百人。

 顛末は誰も語らず消えてゆく。
 姉はしあわせに暮らしたという。
続きを読む »
« 読み返す

← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない