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妹は、ある日姉を失った。いつかは戻ると信じて待った。
美しい、彼女の自慢の姉だった。名をアウロラというのであった。
アウロラはある朝竜になっていた。訳知り顔の占者は言った、
「この者の中身は消えた、諦めよ」
――しかし身体は残っているぞ!
「器には竜の臓器が詰められた」
――信じるものか!
鼻で笑った。
だがそれは、ほんとうのことだったのだ。
優しい姉は消えてしまった。
けだものになってしまった。妹の顔も分からぬけだものに。
けだものに妹は名をつけ直す。けだものらしい、ふさわしい名に。
アウロラは、姉の名前だ。けだものに姉の名前は使わせられぬ。
――おまえなど、排泄物の名で足りる。
アウロラは消え、反吐が生まれた。
その日から、妹は反吐を飼ってきた。人ならぬ反吐は人を食した。
妹は、ひたすら耐えた。
おぞましい。人肉を食み、臓腑を啜る。
だがいつか、姉に戻ってくれるだろう。望みを口に出さぬ日はない。
血にまみれ、竜を従え、さ迷った。聞こえる噂に耳をふさいで。
――人喰いの、おんなと竜が、居るという。
――殺せさあ殺せ、殺してしまえ!
漂泊の旅は永久には続かない。袋小路が死に場所だった。
あっけなく、怒り狂った斧の刃が、逃げる妹の脳天を割る。
だが反吐は、腐っても竜。血を流す妹を踏み、追手を噛んだ。
ぐしゃぐしゃぐしゃ。
――あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。
――あ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ!
血の雨が降る。頬をひと舐め。
その時だ。
アウロラは路地に立っていた。
足元に人、誰かと誰か。ぐちゃぐちゃで、踏みつけられた、人の跡。顔も分からぬ死体が二つ。
アウロラは悲鳴を上げて気絶した。
目覚めた彼女は、優しくされた。
可哀想、人喰いたちにさらわれて。
そうだったの? と、彼女は言った。
妹が願いを込めた名の通り。分かっていたから反吐に喰わせた。
人肉で、竜の臓物を吐きだした。
入れ替わるまでちょうど百人。
顛末は誰も語らず消えてゆく。
姉はしあわせに暮らしたという。