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「この中に犯人がいる!」
探偵のその言葉に、でっぷりとお腹がでていて頭が荒野のように禿げ上がっている典型的な中年オヤジである大福屋の店主が声を上げた。
「は、犯人って?」
――バカじゃないの?
内心、鼻で笑った。そんなの、考えるまでもないじゃない。
探偵もOLと同じように考えたようだ。ボサボサの整えるという概念すらもたなそうなふっとい眉毛をきゅっと寄せ、大福屋の店主に冷たい視線を向ける。
「もちろん被害者を殴った犯人です」
そう、私を――殴った犯人?
「この中の誰かが私を殴ったって言うの!?」
大福屋の店主を笑えない。私も反射的に声を上げてしまった。
この中の誰かが私を殴ったって? あは、笑える。
人気がないし気味が悪いシャッター商店街。本当は極力通りたくなんかないんだけど、その通りは私の住むマンションへの近道だった。
夜から合コンがあって、友だちと作戦会議やろうなんて約束してて。駅へ向かったのはいいけど携帯電話を忘れたことに気づいてさ、走って来た道を引き返して――
大福屋の前で、転んだんだ。
あんなに派手に転んだのは生まれてこの方二十五年、ちょっと初めてだね。すってーんって文字が見えるような転び方しちゃった。頭打って、目の前に星が散って、意識が遠くなった瞬間、あ、これ死んだかもって思った。
――で、目を覚ましたら病院で。
超絶好みのイケメンが枕元にいたわけよ。そこにいる刑事さん。三十一歳、独身だってことはリサーチ済み。
すっ転んだ自分に感謝したね。合コン行けなくてよかった! って神に感謝したね。
でさ、目覚めてすぐにテンションスーパーハイになっちゃったわけじゃん? ついつい言っちゃったわけよ。
――誰かに殴られたんです。
顔も良くて頭もいい刑事さんが色々調べてくれて、その間に私たちは恋に落ちて、事件は結局私の勘違いでした、でも恋に落ちたのは本当の事件です、みたいな展開を期待してたのに。
何やってくれてるんだ、この空気読めない探偵は!