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「この中に犯人がいる!」
……うわ、俺、超決まってない?
金田一少年の事件簿や名探偵コナンを見て育ってきた。「じっちゃんの名にかけて!」「犯人はお前だ!」みたいな名台詞、ずっと言ってみたかったんだよね。ちゃんと決めポーズも考えて、鏡の前で何度も練習してきた甲斐があったというもの。
「は、犯人って?」
大福屋の店主がなぜか震えていた。怪しい。
「もちろん被害者を殴った犯人です」
だが、店主を疑っているようなそぶりを見せてはいけない。ここはクールに、さらりと答える。
「この中の誰かが私を殴ったって言うの!?」
被害者のOLが目を丸くする。少々香水の匂いが強いが、ヒロインとしては申し分のない若くて綺麗ないまどきの女性だった。彼女はきっと俺の活躍を見て、事件解決後には俺を見て頬をピンク色に染めることだろう。
「この中に犯人が?」
と、続いて目を丸くしたのはパティシエの青年だった。彼はもっとも怪しい。気が動転した大福屋の店主の代わりに警察に通報するなど、意外と冷静な一面も持っている好青年。ヒロインとなるべくOLの彼女が彼に興味がなさそうなのが不思議なくらいだ。こういうそこにいるだけで爽やかな風が吹くみたいな好人物はできるだけ視界から排除したかった。できれば彼が犯人であればいいのだが。
集まった全員の視線が向けられる。さて、と俺は考える。
――この中の、誰が犯人なんだろう?
今朝、俺の携帯電話に届いたメッセージ。
『みなさんに話したいことがあるので、明日の午後七時半に【アンサンブル】にお集まりください。 探偵より』
【アンサンブル】というのはこの店の名前である。
まぁ、誰かが事件関係者全員を集めたということは、二時間ドラマのお約束として、ここに犯人がいるというのは確定なわけで。
これから繰り広げられる会話の中で、じっくり犯人を探そうじゃないか。