第13回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2014.01.18 23:26 最終更新 : 2014.01.18 23:45
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目次
1. 「この中に犯人がいる!」
2. 「この中に犯人がいる!」
3. 「この中に犯人がいる!」
4. 「この中に犯人がいる!」
5. 「この中に犯人がいる!」
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更新履歴
- 2014/01/18 23:45:37
- 2014/01/18 23:38:19
- 2014/01/18 23:26:27
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犯人はお前だ!
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


「この中に犯人がいる!」
 二時間ドラマの事件解決シーンよろしく、探偵がびしとポーズを決めて放たその言葉に、一堂に会した面々の表情が凍りついた。
 ――こいつに事件が解けたていうのか?
 刑事は懐疑的にならざるをえなかた。こいつは俺が知ている限りで、もともへぽこで使えない三流探偵だ。メールなんかでケーキ店なぞに事件関係者を呼び出したと思たら一発目の台詞がそれか。
 事件の概要はこうだ。
 一月×日。寒波に襲われ日本列島全体が震え上がていたその日の昼過ぎ。休日の昼間だというのに人気のほとんどないシター商店街の一角、老舗の大福屋の前で、一人のOLが頭から血を流して倒れていた。
 第一発見者は、もうすぐ還暦を迎える大福屋の店主。通報したのは同じ商店街の若いパテシエ。
 被害者は命に別状はなかたものの、財布を盗まれていた。警察ではゆきずりの強盗傷害事件として犯人の捜査に当たていたのだが。
「は、犯人て?」
 怯えたように口を開いた大福屋の店主に、「もちろん被害者を殴た犯人です」と探偵は難しい顔で頷き返した。大福屋の主人は不自然なくらいに挙動不審で、額にうすらと汗を浮かべている。
「この中の誰かが私を殴て言うの!?」
 ヒステリクな声を上げたのは被害者のOLだ。額の大きな絆創膏が痛々しい。まだ二十五歳だというのに必要以上に化粧が濃くて香水がきつく、近寄りたくないタイプの女だた。なのに事件のことが気になるのか、捜査中に何度も現れてうとうしいことこの上ない。
 そのケーキ店の店主である若きパテシエも目を丸くしていた。少し天然な性格で、おとりした好青年だた。事件の第二発見者でもある。
「この中に犯人が?」
 暖房のきいた屋内だというのにくたびれたコートを着込んだ探偵に、再び全員の視線が向けられた。
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「この中に犯人がいる!」
 下手したらホームレスの一歩手前みたいな――いまどき金田一耕助じあるまいし――小汚いその探偵に、はじめから嫌悪感しかなかた。商店街の近くに事務所をかまえ、事件をききつけて勝手に首を突込んできた。
 自分は思い出す。いつものとおり、自分の大福屋は閑古鳥が鳴いていた。大福を並べたて売れやしない。いそ店を畳んだ方がいいんじないかなんて何度考えたかわからない悩みをぐるぐる考えていたときだた。
 店の前に、若い女性が倒れているのに気がついた。
 いつからそこで倒れていたのかはわからなかた。気がついたら女性は倒れていて、慌てて店の外に出たが、怪しい人物を含め、商店街にはあいかわらず人はいなかた。
「は、犯人て?」
 探偵の言葉に、つい返してしまた。探偵は少し怪訝な表情を浮かべたが、「もちろん被害者を殴た犯人です」と答え、そうだ、そりそうだ、とほとした。
 ――魔が差したのだ。
 倒れたOLさんの足元に、バグが転がていた。ヴトンの財布が覗いていた。脳裏に今月の家賃のことが浮かんだ。
 色々と、ぎりぎりだたのだ。
 ほとぼりが冷めたころにこそりお金を戻して財布を返そうと思ていたのだが。
 犯人が見つかたとなたら、自分はどうしたらいいだろうか?
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「この中に犯人がいる!」
 探偵のその言葉に、でぷりとお腹がでていて頭が荒野のように禿げ上がている、典型的な中年オヤジである大福屋の店主が声を上げた。
「は、犯人て?」
 ――バカじないの?
 内心、店主を鼻で笑てしまう。そんなの、考えるまでもないじない。
 探偵も私と同じように考えたようだ。ボサボサで整えるという概念すらなさそうな、ふとい眉毛をきと寄せ、大福屋の店主に冷たい視線を向ける。
「もちろん被害者を殴た犯人です」
 そう、私を――た犯人?
「この中の誰かが私を殴て言うの!?」
 大福屋の店主を笑えない。私も反射的に声を上げてしまた。
 この中の誰かが私を殴て?
 ――あは、笑える。
 人気がなくて気味が悪いシター商店街。本当は極力通りたくなんかないんだけど、その通りは私の住むマンシンへの近道だた。
 夜から合コンがあて、友だちと昼からお茶がてら作戦会議やろうなんて約束してて。駅へ向かたのはいいけど携帯電話を忘れたことに気づいてさ、走て来た道を引き返して――
 大福屋の前で、転んだんだ。
 あんなに派手に転んだのは生まれてこの方二十五年、ちと初めてだたよ。『すてーん』て文字が見えるような転び方しちた。頭打て、目の前に星が散て、意識が遠くなた瞬間、あ、これ死んだかもて思たね。
 ――で、目を覚ましたの、病院で。自分生きてるて思たその瞬間、ベドのそばに立ている彼を見て、今度こそ心臓が止まるかと思たね。
 超絶好みのイケメンが枕元にいたわけよ。そう、そこにいる刑事さん! ジニーズみたいな甘い顔で、でも身長は低くなくて、引き締また身体がもうたまらなくて今すぐハグしてください! て感じ。三十一歳、独身だてことはリサーチ済み。
 す転んだ自分にホントに感謝したよ。合コン行けなくてよかた! て神にも感謝したね。
 でさ、目覚めてすぐにテンシンスーパーハイになたわけじん? ついつい、言たわけよ。
 ――誰かに殴られたんです。
 顔も良くて頭もいい刑事さんが私のために捜査してくれて、その間に私たちは恋に落ちて、事件は結局私の勘違いでした、でも恋に落ちたのは本当の事件です! みたいな展開を期待してたのに。
 何やてくれてるんだ、この空気が読めない探偵は!
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「この中に犯人がいる!」
 ……うわ、俺、超決まてない?
 金田一少年の事件簿や名探偵コナンを見て育てきた。「じんの名にかけて!」「犯人はお前だ!」みたいな名台詞、ずと言てみたかたんだよね。ちんと決めポーズも考えて、鏡の前で何度も練習してきた。今日、その成果がようやく日のもとに!
「は、犯人て?」
 大福屋の店主がなぜか震えていた。怪しい。
「もちろん被害者を殴た犯人です」
 だが、店主を疑ているようなそぶりを見せてはいけない。ここはクールに、さらりと答える。真相を口にするのはまだ早い。
「この中の誰かが私を殴て言うの!?」
 被害者のOLが目を丸くする。少々香水の匂いが強いが、ヒロインとしては申し分のない若くて綺麗な今どきの女性だた。彼女はきと俺の活躍を見て、事件解決後には俺に礼を言いながら頬をピンク色に染めることだろう。
「この中に犯人が?」
 と、続いて目を丸くしたのはパテシエの青年だた。彼はもとも怪しい。気が動転した大福屋の店主の代わりに警察に通報するなど、意外と冷静な一面も持ている好青年。ヒロインとなるべくOLの彼女が彼に興味がなさそうなのが不思議なくらいだ。こういう、そこにいるだけで爽やかな風が吹く、みたいな好人物はいけすかない。俺のような日陰者のためにも、できるだけ世間から排除すべきだ。できれば彼が犯人であればいいのだが。
 集また全員の視線が向けられる。さて、と俺は考える。
 ――この中の、誰が犯人なんだろう?
 今朝、俺の携帯電話に届いたメセージ。
『みなさんに話したいことがあるので、明日の午後七時半に【アンサンブル】にお集まりください。 探偵より』
【アンサンブル】というのはこのケーキ店の名前である。
 ま、誰かが事件関係者全員を集めたということは、二時間ドラマのお約束として、ここに犯人がいるというのは確定なわけで。
 これから繰り広げられる会話の中で、じくり犯人を探そうじないか。
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「この中に犯人がいる!」
 全員が揃たのを確認し、工房から出てきた僕は、探偵のその台詞に足を止めた。
「は、犯人て?」
 大福屋の店主は声を震わせた。おじさん、あんなに怯えなくてもいいのに。
「この中の誰かが私を殴て言うの!?」
 声を上げた彼女に同情してしまう。殴られて怖かただろうな。
 ……と、そこで気がつく。
「この中に犯人が?」
 自分が用意した場が、まさかの推理シの場になてしまうなんて。
 あ、もしかして、探偵さんの名前を騙てメールを出したのがいけなかたんだろうか。でも、自分がメールを送るより、探偵さんの名前で送た方がみんな来てくれるかなと思たんだ。
 小さな商店街で起こた傷害事件。僕はそれに胸を痛めていた。事件以来なんだが様子がおかしい大福屋の店主、事件のことが気になるのか捜査を続ける刑事のもとに足しげく通うOL、その二人をストーカーのようにつけて回る探偵。
 なんだかみんな少しおかしくて。ここはケーキでもごちそうして、親睦を深めたらいいんじないかと思ただけなのに。
 みなと同じように探偵を見た。
 用意してある紅茶とシトケーキ、いつ出せばいいのかな。
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