侵略のポップコーン
「宇宙からの侵略だよ、連人くん!」
また隣りの進常さんだ。進常さんはいつものように、庭に面した窓を開けて勝手に入
ってくる。
冴えない独身中年のおじさんで、小説家を目指してる公務員だ。
僕が学生で一人暮らしなのをいいことに、しょっちゅう妄想を聞かせにやってくるんだ。
僕は呆れながら聞いた。
「進常さん、今度はどんな設定なんですか? もう飽き飽きですよ、宇宙人は」
「違うんだよ、連人くん! ほら空を見ろよ!」
進常さんは血走った目で、僕を外へ引っ張りだす。
「ほら、あそこ!」
進常さんの指さした空を見て僕は仰天した。UFOの群れだ! 十機くらいのUFOがこちらを目指して飛んでくる!
進常さん目をぎらぎらさせて続けた。
そのとき、僕の秘められた力が目覚めていくのを感じた。
「う、う、うぁぁああああああっ!」
額に第三の目が開く。
「超殺戮! 虐殺殲滅根絶やしこうせぇぇぇぇーんっ!」
僕は叫びとともに額からビームを出し、空を飛ぶUFOをすべて撃墜した。
地球に再び平和が訪れる……。
「そんな初夢を見ました」
僕は例のごとく、勝手に家へ上がり込んで、勝手にインスタントコーヒーを飲んでる進常さんに話した。ちょっと得意な気分で。
「どうです、進常さん? 面白いでしょ? 小説に使ってもいいですよ?」
「つまんないよ、別に。連人くんはまだまだ素人だね」
進常さんの答えはつれない。
僕はくちびるを尖らせる。
「それは進常さんのセンスがずれてるんですよ」
「そうかなー……」
そう首をひねった進常さんの身体が、突然激しく震え始めた。
「あがががががが!」
「進常さん、どうしたんですか!」
進常さんの身体がいっそう激しく振動した。
かと思うと、軽い音を立てて頭が弾ける。頭の中身が白いポップコーンのようなものになり散らばった。
進常さんの身体が椅子から崩れ落ちるとともに、少女の声が聞こえた。
「やはり、地球人の中には侮れない者がいる」
進常さんが背中を向けていたリビングへの入り口に、銀髪の少女が立っていた。身体にぴっちりしたスーツを着て、手にはレトロなデザインの銃を握っていた。
僕は驚き戸惑いつつ誰何した。
「お、おまえは何者だ!」
「深宇宙赤色製菓連盟、ポップコルニア。地球人類を全宇宙の食卓に提供するためやってきた」
「そ、そんなことが信じられるか!」
少女は妖しく微笑んだ。
「フフフ、おまえのような特異能力者はとびきり高値のお菓子にしてやろう!」
少女が銃を僕に向ける。
そのとき、僕の秘められた力が目覚めた。額に第三の眼が開く。
「超防衛! 地球外生命体全裸こうせぇぇぇーん!」
僕は叫びとともに、額からビームを出した。
ビームは少女を包み込み、その服だけを溶かす。少女はあっという間に全裸になった。
「いやーん、地球人のえっちぃー! 銀河連邦に訴えてやるからぁーっ!」
少女は胸と股間を隠しながら、天井を突き破って空に消えた。
地球に再び平和が訪れる。
「と、こんな話を書いてみた。今度こそ受賞間違いなし!」
進常さんは、僕の目の前で得意げな顔でタバコをふかす。
例のごとく勝手に部屋へ上がり込んできて、「新作ができたんだよ!」と、僕に無理やり小説を読ませたのだ。
新年早々頑張ってるのは、僕も認める。
でも、同時にこうも思う。
進常さんが小説家になれる日は遠い……、と。
そのとき、僕の背後から少女の声が聞こえた。
「やはり、地球人の中には侮れない者がいる……!」
おわり