第一回 てきすとぽい杯
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れみんぐペンギンず
投稿時刻 : 2013.01.19 23:26
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れみんぐペンギンず
犬子蓮木


 ペンギンたちが大行進している。
 皇帝ペンギンとかタプペンギーとかイワトビペンギンとか特徴的な奴ではない。子供の頃、羽村動物園で見たような標準的でちびこな奴らだ。
 ここは学校の校庭みたい。奥のほうの体育館の前から校門まで6列並んだペンギンたちが、ニスのデモ行進みたいに長い列をなしていた。
 学校の屋上からみたら黒い大蛇がうねているように見えるだろう。
 周りには人間もいた。僕もその一人だた。大きなカメラをかついでいる人もいる。彼らはテレビ局の人間かもしれない。
 僕はペンギンに大胆に近づいて、列を乱さないように近づきながら、かといてペンギンの感情などを気にせずに脇に手を突込んだ。
 もふもふしている。
 なんだか暖かい。
 心臓の鼓動が手に伝わる。
 僕のドキドキとした鼓動もなぜかよくわかる。
 ペンギンはなにも抵抗せずただ行進していく。まるでぼくのことなんか気付かなかたみたいに。
 僕もゆくりとした足取りでペンギンと並んで歩いて行た。校庭を出てさらに進んで行く。歩道はペンギンで溢れていたので僕はガードレールの外を歩いた。
 この行進は何が目的なんだろう。
 いたい彼らはどこに向かているんだろう。
 なにもわからないけれど、ペンギンたちは楽しそうだた。カラフルな遊具のある公園の前を横切り、車通りの多い道路も我が物顔で縦断し、土手を越えて多摩川までやてきた。
 川幅は大きく深いところもある。子供頃、ここで泳いではいけませんと言われていた。溺れて死んだ人だているんだ。
 ペンギンがいぴき川に飛び込んだ。
 僕は「あ」と思た。もしかして彼らはここに自殺しにきたんじないかて。
 だけど、違た。歩いてきたから忘れてしまたていたけど、彼らはペンギンだから泳げるのだ。集団で自殺するネズミとは違うのだた。
 ペンギンたちは先頭の奴に続くようにしてどんどん飛び込んでいく。アルミのフライパンの上ではじけるポプコーンみたいに、ペンギンは岩から跳ねて川に次々に飛び込む。みなもが不規則に揺れてしぶきが僕の顔にかかた。
 お別れだ。
 水飛沫は人間はこの先にはいけないと言ているように冷たい。服を脱いで精一杯泳げばいけるかもしれないけど、そんなことをする人間はいない。カメラを置いていても意味がない人たちがいる。
 さいごのペンギンが川に飛び込んだ。
 僕はもうペンギンにさわることができなかた。
 周りにいた人間達も「オツカレ」と笑いながら次々に帰て行く。
 ペンギンたちは消えてしまた。
 人間たちも消えてしまた。
 空気の振動がおさまて、止まて、静かになて、この世界が死んだようにおとなしくなてしまた。
「嫌だ!」
 僕はペンギンと一緒に川の向こう岸に行きたかたのに。行けるのに。僕が川に踏み込むと思た以上に深くてかんたんにおぼれてしまた。服がどんどん水を染みこんでいく。たすけてなんて声は水の中からは伝わらない。あばれもがく僕の視線の向こうにすいすい泳いでいくペンギンが見えた。
 それが最後だた。

 目を覚ますとそこはいつもの部屋だた。
 新年からとてつもない夢を見てたような気がする。初夢は一富士二鷹三茄子が縁起がいいとか言うけど、ペンギンの行進はどうだろうか。正夢になるような内容でもない。
 立ち上がて頭を振る。上着をはおてテレビをつけた。そしてろくな番組がない現状を確認してすぐ消した。
 カーテンを開けると人間達が行進していた。自殺する集団? 否、初詣に向かう人たちか。みんな楽しそうに着飾ている。
 わたしはそんな人達とは違うのだとそのまま布団の上に寝転がた。
 ペンギンはよかたなと思う。さわた感触はほんものではないが、悪いものではない。行進も思い出すだけでもおもしろい。
 だけど、考えてみよう。
 ペンギンには「前のものに続く」という習性があるらしい。
 だから奴らは、なにも考えず生まれつきの習性に従て先頭に続いていただけで、それは慣習に従う人間の集団となんらかわりない。
 そうだろ?
 ペンギンにはぐれものはいないのだろうか。
 そんな奴は、自然に淘汰されるのだろうか。
 人間みたいに。
 もしそうならば、と悲しくなてふたたび寝ることにした。
 ひさしぶりに動物園にでも行てみようかな。                <了>
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