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犯人はオレだ! シンを背負いし者大賞
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狼男と雪女の秘密
志菜
 投稿時刻 : 2014.03.02 21:17
 字数 : 2831
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狼男と雪女の秘密
志菜


 ふわふわの泡が、お風呂場の窓から差し込む夕陽でピンク色に染まている。あたしは楽しくなて、さらにお湯をかき混ぜて泡を作る。
 勢いがよすぎて、バシとパパの顔にお湯がかかてしまたけど、パパは笑いながら手で顔を拭ただけだた。あたしは両手に泡を集めながら言た。
「テレビで見たのと一緒だね。体もお湯の中で洗うの?」
 尋ねると、パパは曖昧に頷いてみせた。
「そうだと……思う」
「頭もこの中で洗うの?」
 パパは困惑の表情を浮かべた。
……どうだろう? でも、外国のお風呂て洗い場はないから、多分、そうなんだと思う」
「ふん」
 あたしは泡を吹いて飛ばした。ちぎれた泡がひらひらと舞い散る。とてもいい匂い。
「さて、そろそろ体を洗おう。スポンジがいいらしいんだけど、うちにはないから手の平で洗えばいい」
「背中は手が届かないよ」
「パパが洗てあげるさ。さ、後ろを向いて」
 パパの大きな手が、やさしく丁寧にあたしの背中を撫でる。くすぐたくてあたしは笑い声を上げた。
 やわらかな光が差し込む、早い時間のお風呂があたしは大好きだた。
 あたしはシボン玉を作ろうと指で輪かを作て、静かに吹いた。
 だけど、うまくシボン玉は作れなくてすぐにパチンと弾けた。


 晩御飯のあと、小学校一年生の女の子が連れ去られたというニスをテレビでやていた。近所のスーパーに行ていて、母親が少し目を離した隙にいなくなたらしい。
 あたしはジスを飲みながら、そとパパを盗み見た。パパはじとテレビを見たまま、とても、怖い顔をしていた。
「今まで大事に育ててきた娘がさらわれるなんて、ひどすぎる。たた一つの大切な宝物を、自分勝手な理由で奪われるだなんて、ひどすぎる。それならばいそ、目の前で殺されたほうがいい。あきらめがつくから」
 その言葉にあたしは驚いて、真直ぐパパの顔を見た。
 死んでいるより、生きている方がいいに決まている。どうしてそんな怖いことを言うのかわからなかた。
 あたしの視線に気づいたパパは、乱暴にテを掴んで鼻をかんだ。
 テレビに目を戻しながら、あたしは何も言わずにジスを飲み干した。テレビの画面は、明るい音楽の流れるCMに変わている。
「ママがいなくなたとき、パパは決めたんだ」
 唇にコプをあてたまま、あたしは再び横目でパパを見た。パパは少しうつむいて、真面目な顔をしていた。
「絶対に、里美を守てみせるて。少しでも多くの時間を、里美と一緒に過ごそうて。だから、少しお給料は下がてしまたけど、今日みたいに日曜日は必ず休めることが嬉しいんだ」
「うん……
 あたしは頷いて、パパの方を向いた。パパも顔を上げてあたしを見た。
 少し鼻の頭は赤かたけど、もう、いつもの、やさしいパパの顔に戻ていた。


 冷たい布団の中に入り込む。
 パパの乾いた手で体中を撫でられるのは、とても気持ちがいい。パパもあたしも裸で寝るのがお気に入りだた。
 あたしは大きく伸びをして、仰向けになた。
 カーテンを開けた窓から外の光が差し込んで、薄明かりの中、ひじ枕をしたパパの顔が見える。静かで、やさしい顔だた。
 あたしは安心して大きく息を吸い込み、それから目を閉じた。

 低い唸り声で目が覚めた。目を開けると、まだ窓の外は暗くて夜だとわかた。あたしはパパを見た。
「パパ? どうしたの? どか痛いの?」
 布団の中で体を丸めて向こうを向いていたパパの背中が、凍りついたように動かなくなた。あたしは心配になて、起き上がろうと手をついた。
「パパ?」
――ちを、見ないでくれ」
 かすれたような小さな声で、パパは言た。
「パパ?」
 あたしは怖くなた。
「大丈夫だから、ちとだけ、動かないでそのままでいて」
 こちを向かないまま、パパは言た。怖かたけど、あたしは覚悟を決めた。
「パパ、変身するの?」
 パパの背中が小さく動いた。わずかに首を動かして、肩越しに横顔を見せる。
……へんしん?」
 横になたままあたしは頷いた。
「だて、今夜は満月でし? 満月の夜は、狼男は狼になうんだて。……パパ、狼男だたの?」
…………
 あたしは急いで言た。本当は狼男なんて、作り話だてわかてる。でも、知らない振りをして大真面目に言てみせた。
「でも、狼男でもいいよ。パパが狼男でも、あたし、いいから」
 張り詰めていた空気が、ふと緩んだ気がした。ようやくパパの横顔に、笑みが浮かんだ。
「里美はいつも面白いことを言うな。狼男に変身だなんて、なんで思たの?」
「教室にあた本に書いてあたの。狼男は満月の夜に変身するて。それでね、銀の鉄砲の弾じないと死なないんだて」
 パパは低く笑い、体の向きを変えて腕を伸ばした。そのままあたしを胸に抱え込む。パパの体は熱くてちと汗の臭いがしたけど、それは嫌な臭いじなかた。
「パパは里美になら、鉄砲で撃たれてもいいよ」
「撃たないよ」
 あたしはパパの顔を見上げた。薄明かりの中、パパの顎に短い髭が生えているのが見えた。
「だてパパが狼男なら、あたしは狼男の娘だもん」
「そうだな」
 小さく笑たパパはあたしの頭を撫でた。
 あたしは指を伸ばして、パパのザラザラした髭を撫でながら言た。
「そして、ママは雪女だたんでし? だてママの名前は雪だたんだから」
 雪女も作り話だて知てる。でも、パパをもと笑わせたかた。
 パパはあたしの髪を撫でながら頷いた。
「そうだたのかもしれないな。ママも里美と一緒で、色白だたし」
「雪女だたから、いなくなたの?」
「お話では、雪女はどうしていなくなたんだけ?」
 あたしの頭の上で、パパは尋ねた。真夜中に聞くパパの声は、いつもと少し違う気がした。
「秘密を話したからだよ。誰にも言うなて言たのに、昔、お前みたいなきれいな女に会たことがあるて、言たんだ」
……そうか。秘密を話したからか……
 パパは呟くように言て、あたしをもと強く抱き締めた。


 ――そんなパパが、あたしは大好きです。四年二組、○○里美」
 作文を読み終た後、あたしは気付いていなかた。先生の顔がかすかに引きつていたことに。


 数日後、男の人二人と、一人の女の人が家に来た。
 男の人達がパパと話している間、あたしは隣の部屋で女の人に色々聞かれていた。
 ママはいつからいなくなたのか。学校から帰て、パパが家に帰てくるまで家で何をして遊んでいるのか。寂しいことはないか。いつもお風呂は誰と入ているのか。寝る時はどうやて寝ているのか。
 女の人は口に笑みを浮かべて、でも、眼鏡の奥の目はとても怖くて、あたしはほとんど返事ができなかた。

 その人達はその後も何回か家に来た。そして、別の人も家に来るようになて、それから、パパはどこかに連れて行かれた。
 あたしは知らない子供がたくさんいる、白く大きな建物に連れて行かれた。

 ――パパは悪いことをしたんでしうか。

 ――――
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