犯人はオレだ! シンを背負いし者大賞
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亡霊
(茶屋)
投稿時刻 : 2014.03.01 23:08
字数 : 3149
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亡霊
茶屋


 私は罪を犯しました。
 それは裏切りという名の罪です。
 そう、私は大切な人を裏切ってしまいました。
 とても、大切な人を。

 彼との出会いは、今はもう覚えていません。
 気づいたらそばにいた、そんな感じです。幼馴染というやつですね。
 幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も、そして大学も。
 ずっと、ずっと一緒でした。
 一緒といっても常に傍にいたわけではありません。
 疎遠になった時期もあれば、四六時中一緒にいた時期もあります。
 幼稚園の頃はよく一緒に遊びましたけれど、小学校に上がればだんだんと男女間の対抗意識とか、同性の友達に対する羞恥心とかの影響

で話す回数が少なくなってきた時期もあります。その延長からか、中学校の時は一緒に下校するようなことはありませんでした。
 もしかしたらその頃からだったのかもしれません。お互いのことを意識し始めたのは。
 高校に入ると、次第に会話することも増えてきましたが、それはどこかぎこちなく、歯がゆさのあるものでした。
 時に笑いあい、時にすれ違い、時に想い合う。
 私たちがお互いに相手への恋心に気づくより早く、周囲の友人たちがそれに気づき何かと冷かしてきました。
 もしかしたらそれがきっかけだったのかもしれません。あるいはそうなるのは必然だったのだとも思います。
 ぎこちない恋はそうして始まりました。
 今までそれほど気にならなかったのに、相手の顔を長く見続けることが出来なかったり、うまく会話が続かなかったり。
 今まで何の意識もせずにできていたことが急にできなくなってしまったのです。
 どこか頭がおかしくなってしまったのだろうかと思うほどでした。
 恋は病とはよく言ったもの。
 今でもあの頃のことを思い出すと熱病にでも浮かされていたかのようです。

 やがて二人は愛するということにも次第に慣れ、ぎこちなさのなくなった恋人になっていきました。
 たまには喧嘩もするし、自分をよく見せようとすることがあまりなくなりました。
 でもやはり二人でいる時が楽しくて、なんとなく離れがたくて、やっぱり相手のことが好きなんだなって思える。
 そんな関係が長く続きました。
 彼は優しくて、喧嘩をしてもたいていの場合は彼のほうから折れてくれました。
 疲れていても、嫌なことがあっても、彼の笑顔に癒されてきました。
 でも、なんだか、彼を見ていると自分がちっぽけに見えてきて、どこかみじめで、彼にはもっとふさわしい人がいるんじゃないかと思う

ような時もありました。
 それに不満もなかったわけではありません。優しすぎて、どこか刺激が足りないように感じられてしまうのです。
 だから……。

 裏切りました。
 どこか野性的な雰囲気のあるあの男に、
 惹かれ、
 魅了され、
 ひと時の高揚に溺れ、
 そして……。
 罪なんでしょうね。これは。
 だから、私は罰を受けたんです。
 でも、これだけは信じてほしいんです。
 本当に愛していたのは彼だったんだと。
 今更こんなこと言っても、信じてもらえないかもしれないけど。
 裏切り者の言葉なんて、誰も信じないかもしれないけど。
 でも、
 これだけは、
 私の最後の真実だから。

 許してもらえないかもしれないけれど、けじめはつけるつもりでした。
 罪は背負い、罰を受けると。
 でも、淡い期待があったのも確かです。
 彼は許してくれるんじゃないか。私をまた受け入れてくれるんじゃないか。
 そしてまた、元通りの生活に……。
 でも結局それは淡く空しい期待だったんです。
 私は、やっぱり罰を受けたんです。
 
 せめて、その罰が彼の手によるものだったらどんなによかったでしょうか。
 三人で話をすることになったその日、激昂したのは意外にもあの男でした。
 思い切りのいい人だと印象を持っていた男でしたが、その内面は本当はどろどろとした粘着質だったのかもしれません。
 あの男は突然、ナイフを取り出すと、私に向かってきて……。
 ええ、そのあとにあの男も自ら命を絶ったのです。
 罰は彼からではなく、あの男から与えられました。
 せめて、彼に、
 彼に、殺されたかった。
 これが、

「これが私の罪と罰のお話です」
 暗い部屋の中でその言葉は重く響いた。
「なるほど、わかりました。つまり、その、被害者、いえ、あなたを刺した後に、男は自分の首にナイフを突き立てて自殺したというわけ

ですね」
「はい」
「ふむ……」
 刑事は難しい顔をしながら、目の前の人影を見る。
 それは自らを死んだ女だと語り、事件当時の内容を語っている。内容については現在行われている捜査の内容と違わない。
 確かに女が殺され、女を刺した男が自ら首にナイフを突き立てて自殺したというのが、現場検証からほぼ間違いないと推察されている。
 だが、やはり目の前の状況は奇異に映るし、何故だか冗談に付き合わされているような気もする。
 だから、どっと疲れた。
 刑事は部下にその場を任せると、屋上へと向かった。
 タバコに火をつけ、煙を肺に貯める。
 やりきれない。
 女が殺され、男が自殺した。
 ありがちな痴情の縺れだが、もう一人、その場に男がいた。
 死んだ女の恋人だ。
 今の話によれば、死んだ男は浮気相手というわけだ。
 ああ、もちろん女は死んだ。
 間違いなく。
「亡霊が憑りついたか……」
 そんな言葉を吐いた後、慌てて首を振る。そんなわけがないだろう。ただ、狂っただけだ、
 目の前で恋人が殺され、間男が自殺したんだ。
 狂っても仕方がない。
 救急隊員が駆けつけた時、彼は血まみれで笑っていたらしい。
 狂った果てに、自分を死んだ恋人だと思い込んでしまったらしい。
 全く、救いがない。
 だが、死んだ女は本当は許されたのかもしれない。許されて、けれど、許された瞬間、間男に殺された。
 そう思わないと、やりきれないなと刑事は思った。
 青空に一筋の

 雲が流れていた。
 精神病院へ送られる車窓で僕はつまらなそうにそれを見ていた。
 とりあえずはうまくいったようだ。警察はすっかり僕の演技に騙されている。
 僕は狂ってなんかいないし、狂っていたとしたら元からだ。
 それにしても楽しかった。
 直接手を下さずに、三人も殺せた。
 まずは女の恋人だった男。飲み屋で知り合った男だ。どうも、恋人の浮気で悩んでいるようだったから、いろいろと相談にのってあげた

。本当に深刻に悩んでいるようだったから、優しく毒を与えてあげた。
 そりゃ死にたくなるね。
 君が必要なくなったのかな。ひどいね。
 君の存在を否定しているようなもんだよね。
 暗に死ねって言ってるようなもんじゃないか。
 死ねって。
 彼が自殺するのにはそう時間がかからなかった。あまりにも早かったもんで拍子抜けしたぐらいだ。
 彼の死体を処理した後は、彼の部屋に住み込み、彼のようにふるまった。
 彼はだいぶやせ細って髪もぼさぼさ、ひげも生え放題で知り合いだって彼とわからないくらいになっていたから、変装はそれほど手間じ

ゃなかった。
 声はかなり問題だったが、自殺未遂で喉がつぶれたことにした。実際そんなことが起こるのかはわからないが素人相手では問題はなかっ

た。
 彼になり替わり、今度は彼女を追い詰める。これも簡単。彼女の友人関係の同情を誘えばいい。あとは彼女の友人たちが彼女を追い詰め

てくれた。
 もう一人、間男のほうは難しかった。
 正直、放っておいた。だから彼が彼女が刺し殺して、自殺した時には驚いた。彼女を追い詰めて、間男を殺させ、心中を仄めかして彼女

を自殺させるつもりだったのに。
 手間が省けたというものだ。
 かくして三人の人間が死んだ。
 僕は手を下さずに。
 愉快だ。想定外のこともあったが目標は達成できたし、すべてが思い通りにいかないのも一興というものだ。
 あとはこれから連れていかれる精神病院から如何に抜け出すかということだ。
 罪?
 そんなの知らないよ。
 罪なんて人間が勝手に定義して作り出した道徳概念でしょ?関係ないよ。
 だって僕はとっくの昔に人間をやめたんだから。
 僕は僕がやりたいことをやるだけさ。
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