てきすとぽい
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第15回 てきすとぽい杯
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落日
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2014.03.08 23:42
字数 : 1760
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落日
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
桜の木は夢を見ている。マトリ
ョ
ー
シカだ
っ
た頃の夢だ。
一年のほとんどが雪でおおわれている極寒の地だ。そこが、マトリ
ョ
ー
ナという名の女の生まれた地だ
っ
た。女のしるしが来たのは14にな
っ
てしばらくした頃で、村のおきてに従い、縁戚のきこりの家にとついだ。家は鬱蒼としたはやしの奥にあ
っ
た。10も年上の、かもくな男とのふたりきりの生活だ
っ
た。稼ぎもせず、酒を飲むとすぐに暴れる男だ
っ
た。ひとり目の子どもは1年と経たずにでき、生まれてすぐに死んだ。マトリ
ョ
ー
ナは3日3晩泣き明かしたが、夫は死んだ子どもにも子を亡くした妻にも心が動かぬようだ
っ
た。夫の仕事もあまりなければ、他にごらくもないから、2人目の子どももすぐに出来た。今度は死ななか
っ
た。夫は稼がぬし、子どもに見抜きもしなか
っ
た。マトリ
ョ
ー
ナは毎晩子の世話をし、家の世話をし、町へ出ては物乞いをしてその日の食べる分をかき集め、帰
っ
てきては夫の暴力を受けた。3人めの子どももすぐに出来た。やはり今度も死ななか
っ
た。それから、4人目、5人目と生まれた。育てることができず、狼のうなるはやしの奥底へ間引いてきた。
「まるでマトリ
ョ
ー
シカだな」
と、ある日、男は言
っ
た。物乞いをしにい
っ
た町で出会
っ
た男だ
っ
た。
「マトリ
ョ
ー
シカ?」
とマトリ
ョ
ー
ナは聞いた。
「他愛もないおもち
ゃ
のことさ」
と男は言
っ
た。
酒場で出会
っ
た男は、マトリ
ョ
ー
ナの夫と同じくらいの歳で、しかし、何もかもが違う男だ
っ
た。綺麗な服を着ていて、綺麗な立ち姿をしていて、綺麗な顔をしていた。マトリ
ョ
ー
ナは小さな村で生まれ、すぐにはやしの奥底に嫁いだから、何も知らなか
っ
た。男がぐんじんと言う仕事をしているのだということも、男に尋ねて初めて知
っ
た。町の人間なら、その身なりですぐに男が軍人だと知れ、物乞いなど決してしないのだと。
マトリ
ョ
ー
ナは男から銀貨を貰い、店であり
っ
たけの食べ物を買
っ
て家に戻
っ
た。
次に会
っ
た時、男はマトリ
ョ
ー
シカという玩具を見せてくれた。
様々な色を使
っ
て塗られた小さな人形の、腹を割ると、中から小さな人形が出てくる。その小さな人形を割ると、更に小さな人形が出てくる。その小さな人形を割ると、更に小さな人形が出てくる。マトリ
ョ
ー
ナはそれを見ているうちに、唐突に気分が悪くな
っ
た。
「やめて」
と言
っ
てマトリ
ョ
ー
ナは次のマトリ
ョ
ー
シカを取り出そうとする男の手を止めた。
マトリ
ョ
ー
ナは男から銀貨を貰い、店であり
っ
たけの食べ物を買
っ
て家に戻
っ
た。
次に会
っ
た時、男は戦地に行くのだ、と言
っ
た。
「桜の咲く国だ」
と男は言
っ
た。
「さくら?」
とマトリ
ョ
ー
ナは聞いた。
「薄紅色の、儚くて美しい花だ」
と男は言
っ
た。
酒場で出会
っ
た男は、マトリ
ョ
ー
ナとはもう会うことはないと言
っ
た。遠いところに行くからだ、とマトリ
ョ
ー
ナは思
っ
た。それから、この男は最初から遠いところにいる、とも思
っ
た。
マトリ
ョ
ー
ナは男からいつもより多く銀貨を貰い、店であり
っ
たけの食べ物を買
っ
て、家へ向か
っ
たが、男の事を考えると、家に戻り難い何かが胸の内に生まれた。マトリ
ョ
ー
ナは小さな村で生まれ、すぐにはやしの奥底に嫁いだから、それがどうしてなのかわからず、しかしわからないからとい
っ
て家には戻れなか
っ
た。そのうちに、マトリ
ョ
ー
ナははやしの奥深くへ迷い込んで、狼に出くわした。マトリ
ョ
ー
ナは狼に手足を食いちぎられる間、男のことを考えていた。次があるなら桜の咲く国に生まれたいと。
桜の木は考えている。マトリ
ョ
ー
ナだ
っ
た頃のことだ。マトリ
ョ
ー
シカのように延々と子どもを産み続けるマトリ
ョ
ー
ナを男が蔑んでいたのが、今ならわか
っ
た。何も考えられずあのまま家に帰
っ
ていればよか
っ
たのだと桜の木は考えている。
桜の木は路上に根を張り花を咲かせている。春になるといつも花を咲かせて、散り、葉を出して、それもまた季節が巡ると散
っ
ていく。何度花を咲かせても、桜の木は何も生み出すことはない。
桜の木が根を張る桜並木は学校の近くにあ
っ
て、時折、満ち足りた笑顔の学生が、肩を寄せ合いゆ
っ
くりと歩いていく。マトリ
ョ
ー
ナは小さな村で生まれ、すぐにはやしの奥底に嫁いだから、そんな時に胸の内に生まれる心のことを何も知らなか
っ
た。
春、桜の木は時折涙を流す。桜色の涙が満ち足りた男女の上に降り注いでいる。
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