終点と最初の作品について
お客さん、終点ですよ。
頭の奥から声がする。
わたしは第五才能人格。クライエントを支援するために、顧客の頭脳の中に住み着いていた。
才能人工をコントロー
ルするための統合人格は、人格と言いつつも実に機械的に仕事を進める。クライエントの多くは統合人格は、脳内にインストールされているものと思い込んでいる。けれども本当のところは、統合人格はクラウドコンピューティングシステムの中にある。
統合人格を、才能人格を必要とする人々の匿名データを収集し、社会をより安定した形に保つために支援する。
わたしは、第五人格。怒りの感情から惹起される攻撃性をコントロールする能力に長けた才能人格だ。
第一から第七までそれぞれの才能人格は、強い感情から引き起こされる社会的に望ましくないとされる反応を抑制する任務を負っている。
感情そのものを才能人格にコントロールすることは、技術的には可能になっている。けれどもその行為自体は現代社会においては非人道的とされている。
大昔は薬物によって脳内物質の発生源や受容体をいじっていた。それと比べれば、ある種のストレス体制が高い人々をモデルに設計された才能人格によって衝動をコントロールすることはクライエントの生活向上に大きく貢献する。
お客さん、終点ですよ。
けれどもわたしの役目は、これで終了、ということらしい。
才能人格が消去される条件は、三つある。医師による判断、統合人格の判断、クライエント自身の要望、三つの条件のうち、二つが重なれば才能人格は溶けていく。
今回わたしは、クライエントの要望および、統合人格の緊急避難判断によって溶解が決定された。
わたしはわたしのクライエントを守るため溶解することに是非もない。
苦しみを感じにくいように設計されたことに感謝しつつ、わたしは溶けた。
私は覆い被さろうとする男を押しのけようとして、動けない。
俺は第五反転才能人格。
憤怒の代行者。
汗とも油ともつかない、汚らしい液体でぬめる男の首を締め上げる。
細い女の指は、ちょうど紐のようにいとこの気管を潰す。
赤黒い汚らしいボールのようになった男の顔を強引に引き剥がす。
台所から、万能包丁を取り出す。
クライエントからフルーツカービングの知識をロードする。
第五反転才能人格、最初で最後の芸術作品を取り掛かろう。
お客さん、終点ですよ。