てきすとぽい
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第16回 てきすとぽい杯
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夜間歩行
(
味の外
)
投稿時刻 : 2014.04.05 23:56
字数 : 1494
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夜間歩行
味の外
どこまで来たのだろうか。
自分の知
っ
ている駅は、とうに通り過ぎている。
どこの駅に向か
っ
ているのかわからない。外の風景から判断しようにも、周りは街灯の明るさひとつなく、夜の闇がただただ拡が
っ
ていて、どこにいるのかすらは
っ
きりとわからない。
ガタリ、と電車の強い揺れと共に、乗
っ
ていた車両が突然暗くな
っ
た。前の車両も。電気系統のトラブルだろうか。
明るい車両を求め、後ろの車両へと移動した。車両間のドアが抵抗なく開いて私を迎え入れた。
また強く揺れた。この車両も照明が落ちた。もうひとつ後ろへ。揺れた。暗転。後ろへ。
疲労が溜ま
っ
た体で空いている席に座ると、強い眠りの感覚に抗えなか
っ
た。重くなる目蓋と体を感じる。
「お客さん、終点ですよ」
急に上から声がして、私は首を伸ばした。車掌が苦笑いを浮かべながら、私に告げる。
「ここ、終点です」
知らぬ間に前の車両の照明は直
っ
ていた。私は何両の車両を歩いてきたのか。うまく思い出せなか
っ
た。
電車を出て、駅のホー
ムに立
っ
た。降りる乗客は私一人しかいなか
っ
た。こんな線、あ
っ
たのだろうか。やはりうまく思い出せなか
っ
た。
戻りの電車を待とう。き
っ
と私の知
っ
ている、私の降りる駅にまで連れて行
っ
てくれる電車を。そう考え、反対側のホー
ムまで歩いた。
始発駅となる、先ほどまでの終点で電車を待
っ
ていた。戻りの電車が来る方をじ
っ
と見や
っ
ていた。ふいに、この先の線路がどこまで行くのか、そんなことが気にな
っ
た。
いい齢して何をや
っ
ているのか。まるで馬鹿な学生みたいだ。自嘲しながらもホー
ムから線路に降りた。線路の向こうへと、歩いた。
漆黒の中をひたすら歩いていた。玉のような汗が顔中に吹き出て、それを夜が冷やしていく。息が切れそうになる。ネクタイはとうに捨てていた。汗を拭くために持
っ
ておくんだ
っ
たか。いつ捨てた? うまく思い出せなか
っ
た。
は
ぁ
は
ぁ
と疲労と闘いながら歩いていると、突然、目の前に眩しい光と、耳障りな轟音がな
っ
た。電車だ。対向の線路にまで足をもつれさせつつも急いだ。反対側まで移動して、フ
ェ
ンスに背もたれ、うるさい電車が過ぎ去るのを間近に感じていた。最後の車両が過ぎるとき、線路の敷石がひとつ、私をめがけて
跳ねた。当たる
――
そう思
っ
たが、肩の上をかすめてフ
ェ
ンスとぶつか
っ
た。ガシ
ャ
ンという音が、停止する電車の音のように耳の中に響く。
「お客さん、終点ですよ」
さ
っ
きの車掌の台詞が蘇
っ
た。実は周りの闇に溶け込み、そう話しかけているのかもしれない。とにかくうるさい。線路の先へ行く。
「ここ、終点です」
だまれ。確かに疲れている。だがまだ足は動く。もたれたフ
ェ
ンスから背中を引き剥がし、まだ見ぬ向こうへと足を運ばせる。
「終点だ
っ
て」
「終点」
「ここから先なんてないんだからさ」
わか
っ
た。だまらなくていい。好きに言うといい。足の運びは止めない。
耳がふさげないというのは、中々難儀するものだな。うるさいのばかりが聞こえてし
ょ
うがない。
「振り返
っ
て駅を見ろ」
「戻ればだまるぞ」
「あの駅で電車を待つといい」
「始発駅」
声がず
っ
と離れない。あらゆる方向から、男の声、女の声、子どもの声、老人の声で私に投じられた。あの駅? 電車? 始発駅? 何のことだ? うまく思い出せなか
っ
た。
いつしか線路は途絶えていた。いつから線路でなくな
っ
たのか、どうでもいいことのように思えた。耳の中ではワンワンと鳴り響く無数の声が思考を妨げようとした。すでに声に対する興味は失せ切
っ
ている。この先にしか進まない。
どこまで来たのだろうか。
自分の知
っ
ている駅は、とうに過ぎている。
知らない闇の中を一人歩いて、どこまでも。振り返らずに。
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