第16回 てきすとぽい杯
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第八話 封印の解れ
茶屋
投稿時刻 : 2014.04.05 23:37
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第八話 封印の解れ
茶屋


 前回までのあらすじ

 突如異世界からやてきた少女・クルブニーカと出会た平凡な高校生・宗太郎はいろいろとすたもんだの末、彼女の世界を救うために異世界へ向かうことを決意する。だが、異界の門を超えやてきた場所はクルブニーカの世界とは異なるものだた。改めてクルブニーカの世界へ向かおうとするも、謎の刺客に襲われ異界の門を破壊されてしまう。刺客たちの攻撃を切り抜け、たどり着いた街で宗太郎たちはその世界が巨大企業同士が覇権をかけて争ている世界であるということを知る。別の世界へ渡るための門は巨大企業が独占しており、それを奪い合う小競り合いに巻き込まれてしまたのだ。しかも彼らはこの世界にはない魔術を使うことのできるクルブニーカを貴重なサンプルとして狙い始める。再び襲撃を受け、危機に瀕する宗太郎たち。だが、そこへ別の組織がやてきて宗太郎たちを救う。彼らはスヴルトアールヴヘイム商店街振興組合という反巨大企業体のレジスタンスたちであた。彼らはレジスタンスたちへの協力を見返りに、巨大企業に管理されていない異界の門を教えるという。そして、彼らについて戦いの場へと立たされることとなた宗太郎とクルブニーカ。巨大企業体バルドルへの奇襲作戦が成功するかに見えたその時、増援が現れ、退路を絶たれてしまう。次々と倒れていく仲間たち、もはや絶望的な状況と思われた。しかしその時、宗太郎は新たな力「別世界の魔王」の能力を顕現させる。





 軍勢がいる。全て、手足のように操れる、我が軍勢。
「全てを支配する。全てを塗り替える」

 果たしてそうだたか。我が望みは。
「無に帰す。絶望も悲しみも愛も希望もすべて飲み込んで」

 宿敵が前にいる。配下は皆死に絶えた。だが何故か、妙な安心感を覚えていた。
「魔王、もう終わりだ」

 銃弾すら受け付けなかた強化外骨格社員が巨大な力に圧迫されるかのようがいとも簡単にひしげた。ベキゴキゴリという鈍い音とともに断末魔の叫び声が聞こえ、やがて水音がしたかと思うと、圧縮された社員が球状の塊となて地に落ち、さらに収縮を続けている。
「なんだこれ」
 宗太郎はそれが自分のやたことだとは信じられなかた。
 けれども、感触があた。自分の中にある巨大な力で邪魔な存在を押し潰したという感触を。
 力を使た瞬間、奇妙な光景が目の前に浮かび、自分が知らない自分の中の誰かの感情が流れ出してきた。
 昂る心、冷徹な意思、もの悲しげな無常観。
 混乱する。
 混乱の中で、宗太郎は力をふるい続ける。
 暴力を、圧倒的な、魔王の力を。
 

――第八話 封印の解れ――

 目を開ける。天井が見える。すぐそばの窓からは日差しが差し込み、きれいな青空が広がている。
「起きましたか。お客さん」
 聞きなれた声だ。碧眼の少女の顔が覗き込んでいる。確か商店街振興組合の組合員でアールヴ、通称・薬屋だ。
 異世界から来た宗太郎たちをいまだお客さんと呼ぶのはアールヴぐらいだ。
 宗太郎はゆくりと身を起すと周囲を見渡した。ベドがいくつもあり、包帯を巻いて寝ているものが何人もいる。
「病院?」
「仮のですがね。今回の戦いで傷を負たものはたくさんいるんで、病院はもう一杯てわけでさ。それ以上に一杯なのは」
 そこまで言てアールヴは口をつぐむ。
 そうだ。たくさん死んだ。傷を負た物以上に死者が多かたのだろう。
「クルブニーカは?」
「無事ですよ」
「良かた」
 たくさん人が死んだのにそんな言葉を吐いていいのかわからなかた。けれども、彼女が死んでいたら自分はすべてを失たような気がしていただろうと宗太郎は思う。何せ、この世界の人間じないのは宗太郎とクルブニーカしかいないのだから。
「一体何があたんだ」
「俺もよくわからんですよ。あんたが急に不思議な力で社員どもをぶ殺したんですから。すごかたですよ。ありたい何なんです?」
「俺も知らないんだ」
 けれども、その力は使てはいけない力のような気がした。
 とてつもなくおぞましいものの力を何かと引き換えに使た。そんな感じがした。
「でも、なんだか黙示の終点てやつみたいな力でしたね」
「何て?」
「お客さん、終点ですよ」
「終点てのは」
「物てのは圧縮するとどうなります?」
「潰れるな」
「全方向から同じだけの力をかけたら?」
「そのまま縮むんじないか?」
「そうですね。だけど、限界まで圧縮し続けたら、何になると思います」
「なんだ?」
「点ですよ。鈍いなー、お客さん。圧縮し続けると最終的に点になる。つまりは終点てわけです」
 終点、あの時強化外骨格正社員は最終的に点になたのか……
「別世界の魔王てのが使てたていう伝説がありますね」
「別世界の魔王……
 情景がフラクする。戦争、血、支配、力、敵、勇者、封印。
 ふと、笑いがこぼれてきた。
 何故だか、高揚感が沸き立てくる。
 久しく忘れていた感覚だ。
「どうしたんです」
「いや、もう少し教えてくれないか。商店街振興組合の戦力について」
「なんでまた急に。お客さんあれほど戦うことを嫌がてたじないですか」
「気が変わたんだ。力を手に入れたから」
 気が元に戻たんだ。力を取り戻したから。
 自分の中にいる何かが、目を開けようとしている。
 目覚めさせるために、力を振るわなければ。
 彼らを呼び覚ますために。
「宗太郎」
 声が聞こえて我に返る。クルブニーカが入り口に立ていた。
 何か奇妙なことを考えていたような気もするが、まだ混乱しているのかもしれない。
「なんだ生きてたのか。がかり」
 クルブニーカが慌てたように言い足すのがなんだか可愛らしくて自然と笑みがこぼれてくる。
「お前の世界を救うまでは死ねないからな」
 そう、まだ、死ぬわけにはいかない。
 何故ならば、
 我が戦は始またばかりなのだから。


―続  かない
 
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