てきすとぽい
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2014年4月22日の物語
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2の下僕
(
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
)
投稿時刻 : 2014.04.22 21:46
字数 : 1557
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2の下僕
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中
「今日
っ
て、4月22日なんだよ」
僕の言葉に、ク
ッ
シ
ョ
ンにあごを乗せ、ごろごろしながらず
っ
とスマホをいじ
っ
ていた彼女は顔を上げた。今日は外は朝から天気が悪くて、出かける気力が起きない、と夕方近くにや
っ
て来るなり、彼女はず
っ
とこんな感じでここで過ごしている。そろそろ僕はお腹が空いてきたんだけど、彼女は夕飯のことはどう思
っ
てるんだろう。
「だから、何?」
リラ
ッ
クスタイムを邪魔されて、彼女はいかにも不機嫌そうな顔をした。
「2で割り切れる数ばかりだな
っ
て」
そんなことで声かけたの? なんて半ば呆れたような顔をして、彼女は僕の方を見や
っ
た。
「それなら、4月4日も、2月22日も、全部2で割れるよ。8月8日もね。わざわざとりたてて言うような話?」
仮にも僕は彼氏だと思うんだけど、その反応はち
ょ
っ
とヒドいと思う。
「
……
僕だ
っ
て、無駄話くらいするよ」
「そうだね。ほんと、無駄だね」
ふふんと笑
っ
て、彼女はスマホに視線を戻した。
なんか悔しい。
「22を素因数分解すると、2と11だね」
彼女は返事をしない。
「2で割り切れる数のくせに、相方が11だなんて、なんとも中途半端だよね」
彼女はとうとうこちらに背を向けた。
「11
っ
てさ、素数じ
ゃ
ん。オー
ルマイテ
ィ
の2の相手をするには役不足
っ
て感じがするよね」
彼女の腕が動いているのが見えた。またスマホをいじ
っ
ている。彼女は今、ドラゴンを倒すだかなんだかのパズルゲー
ムにはま
っ
ている。
「そもそもさ、なんで、数字の世界だと2
っ
て偉いんだろうね。二つに割れることがそんなに重要なのかな。むしろ僕は、19とか113とか、2179とか10657とか、そういう素数の方に敬意を払いたいと思うよ」
もそもそ、と彼女は肩を動かして、首だけでこちらを振り返
っ
た。
「なんでそう、スラスラ素数、言えるの?」
「高校時代に円周率を覚えるのに飽きて、一時期、素数を覚えるのにハマ
っ
てたんだ」
彼女がや
っ
とこちらを向いてくれたので、嬉々として答えたのに。
「
……
円周率、覚えてたんだ」
今も昔も暇人なんだね、なんて言われてしま
っ
た。言
っ
ておくけど、僕はそれなりに忙しい大学生活を送
っ
ているし、アルバイトだ
っ
てや
っ
ている。今日だ
っ
て、彼女の予定に合わせて時間を工面したのに。
彼女はまた僕の方を向いてくれなくな
っ
た。悔しくて、僕は喋り続ける。
「素数
っ
てさ、孤高な数字なんだよ。誰にも頼らないで、俺は俺だ
っ
て自己主張してる感じ? 10657なんて、5ケタもあるのに独立してるんだよ? すごいよね。特に、2の野郎に媚びてないのがすごくいいと思う。1024なんかさ、4ケタもあるのに2の倍数なんだよ? 割
っ
て割
っ
て割
っ
て割
っ
て、それで最後に残るのはや
っ
ぱり2なの。結局、お前も2の下僕なのね
っ
て感じ。ね
ぇ
、わかる? この数字の世界の厳しさ!」
彼女の反応はなくて、今度こそ僕は泣きそうにな
っ
た。
しばしの沈黙ののち。
彼女は、の
っ
そりと起き上が
っ
た。
「訊いてもいい?」
投げかけられた彼女の言葉に、コクコクと何度も頷き返した。
「結局あんたは、2の下僕ばかりで構成されてる、4月22日が嫌いなの?」
答えられずにいる僕を、じ
ぃ
っ
と見つめて。
は
ぁ
、
っ
と彼女は嘆息した。それから、タイトなジー
パンのポケ
ッ
トから小さな包みを取り出した。
「誕生日、ち
ゃ
んと覚えてるから」
差し出されたそれを受け取
っ
た。重みがある。そ
っ
と包みを開くと、鈍く光を反射するキー
チ
ェ
ー
ン。
「ケー
キも買
っ
てあるし。玄関に置いてあるの、気づかなか
っ
た?」
「
……
気づいてなか
っ
た」
「ほんと鈍いね。回りくどいことすんな、バカ」
口の悪い彼女は、ぶつぶつと僕に文句を言い続けている。
「あんたみたいなのは、2の下僕にでもな
っ
てろ」
僕は、絶対的に素数びいきではあるんだけど。
今日くらいは、2の下僕でもいいかなと思
っ
た。
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